七話 相栗マコトは人間を離れる。

 俺は人間だ。


 産まれた時から人間で、これから先も人間だろう。


 だけれど時々、一時的に人間でなくなることがある。


 人間離れすることがある。


 人間から離れる。


 人間以外になる。


 そういうとき、僕は僕じゃなくなる。


 人間であるから僕は僕で、僕は相栗あいくりマコトなのだ。


 人間じゃ無くなるのは、いつも学校にいる時だ。


 場所は教室だったり、トイレだったり、屋上だったり、なんの前触れもなく突然人間離れを起こす。


 僕は僕じゃなくなり、僕の世界は壊れる。


 しかしそれも一時的なもので、そのうち僕は人間に戻る。


 それもまた、なんの前触れもなく。


 さて、それなら僕は人間以外の「なに」になっているのか。


 実はそれは、僕自身にも分からない。


 人間で無くなっている間の記憶は、人間に戻った瞬間に全て無くなっているのだ。


 つまり、一時的に記憶が飛ぶ。


 それは一瞬かもしれないし、数秒かもしれないし、はたまた数時間か、もしかしたら何百年も経っているのかもしれない。


 人間に戻った後の世界は、人間じゃ無くなる前の世界となんら変わりは無いが、それは僕が気づいていないだけで、何百年も経った後の別の世界だって可能性もあるのだ。


 まあ、それはさすがに考えすぎだろうけれど。


 だからまあ、そんなに気にすることもないのだ。


 いつの間にか授業が終わっていたり、放課後になっていたりしても、特に不都合はないのだ。


 教科書や内履きがなくなっていたり、クラスメイトが数人減っていても、少し時間が経っただけなのだ。


 太陽が2つになっていたり、空から人が降っていたり、教室が赤く染まっていても、世界が変わったわけではないのだ。

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