五話 高中コユキは星に願う。

「一年に一回すら会え無いじゃん!」


彼女は泣きながら、怒りながら、そう言った。



ほとんどの学校には『七不思議』というものがあって、この学校にも、七つの不可思議な噂がある。


そのうちのひとつが『階段の踊り場にある鏡はあの世と繋がっている』という、まあまあ定番の七不思議だった。


学校の階段の踊り場には、不自然なほど大きな鏡がある。


階段を登って右手の壁に、壁のほぼ全てを覆うほどの大きな鏡が埋め込まれているのだ。


あまりに不自然な鏡なので、そこに幽霊が映るとか、鏡越しに幽霊と話せるとか、そういう噂が絶えなかった。


その噂は本当だった。


事実、俺はこの鏡を通して、彼女と話ができている。


彼女は言った。


「今日、七夕だよ」


その声はどうしようもなく寂しそうだった。


だから俺は少しでも彼女を元気づけようと、できるだけ明るい声でこう言ったのだ。


「俺達ってさ、織姫と彦星みたいだよね!」


考えなしの、安直な発言だった。


俺達が織姫達と重なる部分は、離れてて会えないということだけなのだから。


だから彼女は泣いたのだ。


怒って泣いて、一年に一回すら会え無い、と言ったのだ。


悪いとは思ってる。


申し訳ないとは思ってる。


だけどそれは、今になっては仕方のないことなのだ。


俺はもう彼女に会えないし、彼女ももう俺には会えない。


こうして、鏡越しに会話が出来るだけでも幸せなのだ。


目の前で泣いている彼女に、手を触れることすら出来ない。


何か言わなきゃと思った。


それしか出来ないのだから。


「えっと……好きだよ……!」


「私もだよ!!だから辛いんでしょ!!」


彼女は怒った。


そしてもっと泣いた。


俺達はもう、どうしようもないのかもしれない。


どうにもならないのかもしれない。


そういえば、一年前の今日、俺は短冊に願いを書いた。


琴川ことかわサオリと結婚します」


願いというより、誓いだった。


それぐらい俺は本気だった。


真剣だった。


なのに、その願いは叶わなかった。


叶わなくなった。


織姫も彦星も、俺の願いなんか聞いちゃくれなかった。


七夕なんか嫌いだ。


「なんで……なんで死んじゃったの……」


彼女は泣いていた。

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