四話 繭田リクは絵を描く。

 僕は必死に絵を描いた。


 授業中も、休み時間も、放課後も、ずっと。


 たまに友達が僕の描いた絵を覗きに来た。


「上手だね」


 そう言うと友達は去っていく。


 先生が覗きに来る。


 授業を聞け、ノートをとれ、勉強をしろ。


 そうやって先生は僕を叱る。


 僕は絵を書き続けた。


 来る日も来る日も絵を描いて、絵を描いて、絵を描いて、絵を描いた。


 僕は描いた絵を引き出しにしまう。


 絵を描いて、引き出しにしまって、絵を描いて、引き出しにしまって、絵を描いて、引き出しにしまった。


 引き出しが一杯になった。


 引き出しから絵が溢れる。


 引き出しから絵が溢れて、教室の床に落ちて、広がって――。


 教室が絵で一杯になった。


 教室から絵が溢れて、友達が「上手だね」って言って、先生に叱られて、僕は悔しくて、涙が溢れた。


 溢れた涙で絵は滲んで、滲んだ絵はとても綺麗で、友達は「上手だね」って言って、先生は「授業を聞け」って言って、僕は目を覚ました。


 授業中だった。


 机の上の描きかけた絵は、僕のよだれで滲んでいた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る