八話 恋炭レンは思い出す。

 また消えた。


 34人になった。


 僕のクラスはもともと、40人いたはずだ。


 ある日、39人になった。


 その次の日、38人になった。


 その次の日も次の日も、一人ずつ減っていって、今日は34人になっていた。


 欠席とかじゃない。


 クラスの名簿、出席簿からも名前が消えていて、机や椅子も毎日ひとつずつ減っている。


 おかしいのは、僕以外の誰も、そのことに気づいていないということだ。


 先生も含め、クラスの誰も、何も言わない。


 だけど、実は僕もおかしい。


 僕は、クラスの人数が減っていることに気づいている。


 昨日より、一人少なくなっていることに気づいている。


 それなのに、が分からないのだ。


 間違いなく、今日でクラスから6人の生徒が消えているはずなんだけど、その6人が誰なのか分からない。


 一人も思い出せない。


 そのせいで、本当は最初から36人だったんじゃないかって気がしてくる。


 そんなはずは無いのだけれど。


 このままだと、いつか僕一人になってしまうかもしれない。


 いや、もしかしたら僕も消えちゃうかもしれない。


 なんとかしなければいけない……。


 だけど、クラスの人数が減っているなんて言っても、誰も信じちゃくれない。


 じゃあ誰がいなくなったの?って聞かれたって、僕も答えられないのだから。


「悩んでるねぇ」


 席に座って頭を抱えていると、誰かに話しかけられた。


 顔を上げると、金髪の男がにやけ顔で立っている。


 金髪の男――隣のクラスの真稚貝まちがいナオだ。


 校内で唯一金髪だから名前は知っているが、今まで話したことは無い。


 このクラスに来ることも滅多に無い。


「え、なに……?」


「いやー、君が悩んでるみたいだから相談に乗ってあげようと思ってさー。恋炭こいすみレンくん、だっけ?」


「あ……うん」


「レンくんはね、もしかしたら大丈夫かもしれないんだけど、どうしてもダメだったら屋上から飛び降りるといいよー」


「えっ……どういうこと?」


「いや、きっと君は大丈夫なんだけどね。三津傘みつかさくんはダメだったみたいだけど」


 三津傘。


 ――その名前を聞いた瞬間、頭が回って、視界が揺れて、全てを思い出して、世界が変わって、金髪の男が消えて、クラスが40人になった。

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