九話 中伊ユウタは世界に生まれる。

 今日はね、僕の誕生日なんだ。


 誕生日っていうのは、文字通り、誕生した日、産まれた日ってこと。


 といっても、産まれてはいないんだけどね。


 これから産まれるのさ。


 だからまだ、『産まれた日』って言うのは早計過ぎるかな。


 まあ、もう間もなく、産まれるんだけどね。


 ――いや、ちょっとまって。


 産まれるって言うのは正確じゃないや。


 間違ってしまったね。


 これじゃあ、誤解を生んでしまう。


 正確に言うと、僕は今日、産まれるんじゃなくて、生まれるのさ。


 そりゃあそうだよね。


 産み落とされる前の新生児が、こんな流暢に喋るはず無いもんね。


 誤解の無いように、ちゃんと言い直そう。


 ――僕は今日、世界に生まれる。


 世界に生まれて、世界に取り込まれて、世界の一部になる。


 そうなるのが今日、僕の誕生日なのさ。


 おっと、随分地面が近くなってきた。


 生まれる時間だ。


 ――――。


 ――えっと……無事生まれたみたい、だね。


 今は、休み時間かな。


 教室の中が騒がしい。


「ユウタわりぃ! 宿題見せて!!」


 高中たかなかコユキが話しかけてきた。


 懐かしい。


 こいつは毎日のようにこのセリフを言ってたなあ。


「悪いねコユキ、僕も今からやるんだよ」


「えっ!? ユウタが!? ユウタが宿題やってないなんて、俺が宿題やってくるより珍しいじゃん!」


「自分で言うなよな、そんなこと。サオリちゃんも呆れてたよ?」


「え!? サオリがなんて言ってたんだ!?」


「んーと、一年に一回も宿題してこないじゃん! だったかな」


「ま、まあ、否定はできない……」


 僕らのやりとりを聞いてたクラスメイトが笑っている。


 よかった、僕はちゃんとこの世界に生まれたみたいだ。


 僕はこのまま、世界に取り込まれる。


 ちょっぴり寂しいけど、まあ、それでも、絶望ってほどじゃない。

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