第31話リリよ   詩

5月7日 Sat

リリよ


冷凍室をあけると薄緑のアイスノンが目につく

リリは一晩この人工の氷にひやされていた

ほんとうは

人肌であたためていたかったのだが

かなしくてそれができなかった

週刊誌大の氷のうえで

ひと晩あかしたのだね

リリ

つめたかったろう


こころぼそかったろう

くやしかったろう

病気にさえならなければ

まだまだ生きていられたのに


腐敗したっていい

腐臭を部屋に充満させたっていい

氷で冷やしておくなんてこと

しなければよかった

腐って

臭くて

リリのことがイヤニなっていれば

リリの

みにくい容姿をみていたならば――

こんなにかなしまなくてすんだ


リリ、リリ、リリ

おまえはさいごまで

かわいいかった


あまりにあいらしいので

「リリ、カワイイ」

ワタシタチノ言葉に応えて

目を細めて

よく――

くるりとよこになったね


あの

あいらしいすがた

いまでも目にうかぶよ


どうして人間のかんがえから

ぼくはぬけだせないのだろう

かなしいよ

かなしいよ

氷のうえに置き去りにして

ゴメンよ

ほんとうは

庭の隅に埋めたかった

土葬にして

毎日涙をながしていたら

おまえの上に涙をそそいでいたら

猫の木の芽が

でたかもしれないよな

大木になったら

ぼくは

おまえに寄りかかって

毎日、嘆きの詩を

きかせてやれたのに

おまえは

一握りの

骨と灰になってしまった

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