第23話猫に励まされて執筆続行。

12月14日 月曜日

猫に励まされて執筆続行。

●毎日、まいにち、GGはキーボードの前で苦しみ、悲しみ、ちょっぴり快感をあじわいながら生きている。この歳になるまで、がんばりぬくことのできたのは、愛猫の励ましがあったからだ。

●最初はミユ。息子の学が拾ってきたトラの雌猫。かわいかったなぁ。わたしがキーボードを叩いている間中、ずっとかたわらにいた。あのころは、液晶画面に映るわたしの髪もなんとか面目を保っていた。

●次がいまのブラッキ。雌猫。わたしはすっかりGGとなり、目の前の画面にサザエさんのパパ、波平さんほどではないが、残り少ないカミをふりみだしてキーボードと格闘するおのが姿をみてゾッとすることがある。

●よくこんな歳、姿になるまで執念深く書きつづけているものだ。自嘲まじりの微苦笑が浮かぶ。その映像をみて、さらに、さらに悲しくなる。ミュは18年生きた。ブラッキはいま17年。ちょうどわたしが執筆に悪戦苦闘している時期にダブっている。それ以前は、けっこう順風満帆とまではいかないが、月刊雑誌に三本も書いていた。あのころ、なにか賞をとっていれば、こんな落ちぶれ方はしなかったのだろうが。浅学非才。――を露呈しているような身分だ。才能がないというか。筆は進まない。ということは、キーボードのうえで指がフローズン。なんとも情けない状態になると、猫ちゃんが心配顔でわたしの手をなめてくれるのだ。

●「はいはい、がんばりますよ。おもしろい小説を書けるかな?」

「ニャンとも返事できません。ただただ、精進しているパパを励ますニャン」

12月16日 水曜日

ブラッキーとリリで編集者招いてよ。

●ブラッキーがわたしの前を素通りしてベッドにポンととびのった。

わたしは椅子を回転させて愛猫と向かいあった。

顔を逸らされる。猫は正面から顔をあわせると、プイと視線をあらぬ方にむけてしまう。そのそっけない態度がまたかわいいのだ。

●二階にある書棚の一番下の段には、雑誌が積んである。爪とぎをその雑誌の背表紙でする。ズタズタになってしまった。

でも――そんな爪とぎの仕草がかわいい。

●部屋にオマルがおいてある。もちろん臭気がする。でも気にならない。

●半世紀も猫とつきあっている。街に出て人の顔をみると、奇妙な感じがする。

どうして人の顔は毛におおわれていないのだ。などとバカゲタことを思ってしまう。猫バカだな。もうどうしょうもない、猫好きだ。

●リリは食欲がでた。

カミさんが食事を温めてやっている。猫は猫舌というが、あまり冷たいものはいけないと知った。わたしもお酒はいつも熱カン。だんだん猫がわたしに似て来たのか。ブラッキーもリリも書斎が好きだ。三人とも書斎にこのところ閉じこもっている。狭い空間で生活している。いちばん家で暖かい場所を猫はよく知っているのだ。

「おいこら猫ちゃん。ふたりで、小説書くの手伝ってくれ」

それができないのなら、福を招いてくれよ。

福とはとどこおりなく原稿が売れることだと、GG的にはそう認識している。

●「編集者を招き寄せてくださいな」

カミさんも、同じようなことを考えていた。

●励まされるだけでも、うれしいよ。

頭髪は禿げたが、才能ありと思いこんでいたメッキが剥げおちたなんて、いわれたくないものね。

12月18日 金曜日

冬の寒さにも負けず、書きまくるぞ。

●いよいよ寒くなった。二階の書斎兼寝室。朝四時。5℃しかなかった。

いままでの暖冬がウソのようだ。寝室を下の部屋にしようかな。などとGGらしいことを考えた。

●ブラッキーとPCをかかえて仏間のホリゴタツに――。

Kさんから、メールがはいっていた。二三日メールを見ていなかったので、あわてて返信。

●縁側の改装。節ちゃんのおかげで立派にできあがった。

うれしくて、カミさんと丸テーブルや椅子を持ってきてお茶した。

●男体山から吹き下ろす空っ風。

そのため東北地方より寒いといわれる鹿沼の冬。いよいよ始まり始まり。

●この冬の間に完成させたい長編が、「方舟の街」「人狼武と玲加の初恋」「吸血鬼の哀愁」――とりあえず、三本もある。

ブラッキーとリリとカミさんの励ましでぜひとも、完成させたい。

ブジ脱稿といきたいものだ。

12月19日 土曜日

お留守番は猫ちゃんだけ……。

●お留守番は猫二匹と。ブラッキーとリリ。めったにカミさんとわたしで長時間家を留守にすることはない。たまたまふたりで遠出しても、お留守番をしている二人のことが気になって、早々に要件をきりあげて帰宅する。

とくに、昨日のように寒波に見舞われた日は、「リリどこにいるかな。二階の陽の照っているところに、移動してるかしら」

「ブラッキーは馴れているから、そのてんは心配ないと思うんだ」

二人で、同じような会話をなんどもくりかえす。

●二人のいたいけない娘のように猫を思っている。過日、カミさんは娘と話していて。

「わたしと、猫とどっちが心配なのよ」

とつっこまれていた。

それは……「猫よ」。

とっさに猫よ、と応えた以上自己の発言には責任がある。

なにかくどくどと言い訳をしていた。

猫愛に徹している人間のほうが、異常なのだ。

別に釈明することはない。

●もちろん、娘のことを心配しない親はいない。

だが、こと猫のことになると感性としての愛情のような気がする。

猫のことを思っただけで、あのもこもこの毛の感触が、あたたかさが、手のひらによみがえる。

からだをスリスリするあまえたしぐさ。

紙袋にもぐりこむユ―モァ。

尻尾だけだしたカーテンニャン遁の術。

●猫に癒されて、ストレスが溜まらず、家の中から笑いが絶えず、この歳までわたしたちも長命を保っている。

●空前の猫ブームだという。

わが町のペットショップでは猫は人気がないらしい。

売っているのは犬ばかりだ。

なぜなのだろう。まったくわからない。

だが作家としてのGGは、この謎を解き明かす事が出来れば、この町の特性を解釈できると思う。

いろいろ推理するのだが、いまのところ解明できないでいる。

●猫、猫で今年も過ぎて行く。今朝は二時から起きて、ブラッキーとふたりで執筆。

コタツが大好きな老猫ブラッキーは片時もわたしから離れない。

疲れてネこまないよう、老猫と老病相哀れむなどとならないように、不養生に注意して精進しなければ。

遠く家の隅のほうでリリの鳴き声がする。カミさんとリリがお目覚めのようです。

12月20日 日曜日

小説を書く前にジャズを聴く。

●カミさんの弟の節ちゃんが「これが最後の仕事になる」といいながら縁側を直してくれた。ご苦労様でした。引き戸はサッシ。音が外部にあまりもれなくなった。

ためしにjazzをかけた。庭に出て音をたしかめていたカミさんが、「ほとんど聴こえない」と喜んで部屋にもどってきた。大きな音で聴きたくても近所への配慮から、低い音で聴いて来た。

雨が降っている時などは、その気配りの必要がないので、「雨天大歓迎」といった時期が長く続いた。

●DEAR OLD STOCKHOLMを聴く。ウオドロンの抒情的なピアノにしばらくぶりで酔いしれた。これはもう、小説を書く前にル―ティンとして、コーヒーをのみjazzを聴かなければ。むかしの習慣がもどって来たようでうれしかった。

●高田馬場の「イントロ」なんていまでもやっているのだろうか。

「マイルストン」はどうだろう。

●リリもブラッキ―もだいぶ元気になった。さてこれからjazzを聴こう。

猫ちゃんたちはどんな反応を示すかな。

12月20日 日曜日

シーラカンスの記憶

高田馬場の駅を降りて目白の方角に彼は歩きだしていた。西早稲田の娘の下宿とは反対の方角だ。その夜は、娘のところに泊めてもらうつもりだった。新宿の「アドホック」でKの出版記念会があった。

 それから、同人誌仲間と二次会をやった。Kを囲んで「焼酎屋」で飲んでの帰りだった。

 かなり酔っていた。jazzが歩道にながれていた。パブの扉が幽かに開いていた。誘われるように彼は扉を開いた。先客がいた。撮影の器具を足元に置いて飲んでいた。

「………が死ぬとは思わなかったな」

「そうよね。すこし早すぎたわ」

 夭折したアメリカのjazzマンのことが話題にあがっていた。

 誰だったのか? あのときは、わかっていたはずなのに――。

 その店の名前も思いだせない。歩道から二段ほど下りた。自転車が三台ほど置いてあったのは覚えている。記憶があいまいになっている。

 作品を書く上で必要とすることが、記憶からぬけおちている。分厚い扉だった。なにかの拍子で、半開きになっていた。そんなことは鮮明に脳裏に浮かび上がってくる。彼は誘われたように、扉を大きく開いた。そこには、先客がいた。マスコミで働いている。言葉の節々にそれを誇示しているのが感じられた。その男の話に反発を感じたためか――。言葉が口をついてでていた。呂律がまわらない。酔いがまわってきた。彼はそれでも、話しつづけた。

「ジャズの帝王。ナベサダが宇都宮工業の学生で、よく鬼怒川の観光ホテルで演奏していました」

 彼はふたりの話題に割りこんだ。

「いつのことです」

 テレビ局の人間なのだろう。不愉快な顔。冷やかすような調子で彼に訊く。

「終戦直後のことです」

「古い話ですね。化石みたいなひとだ」

 オチョクラレテいる。そう。シーラカンスの記憶だ。

「水道橋のたもとに、『スウィング』て、ジャズ喫茶がありましたよね」

 彼が、バンダナをまいたママに聞いた。

「娘さんがすぐ近所でカレーライスの店をやってるわよ」

 そんな応えがもどってきたのはよく覚えている。

「デキシ―専門の」

「そうそう」

 先客はママが目当てで来ていたのだろうか。すごく不機嫌な顔になっていた。

「もうやっていないのだろうな」

「そうそう」

 そんな些細な会話が、よみがえってくる――。

 あのとき、遠いアメリカで死んだjazzマンはだれだったのだろう


注。ジャズを聴いているうちに、拙作「アサヤ塾」の窓から、という超短編集から転載したくなった。この作品の背景となっている時からでも、20年以上経っている。時の流れは速いものですね。あの時はまだミユが元気だった。

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