第13話ものぐさ、怠惰のすすめ。

2015年1月1日 木曜日

あけましておめでとうございます。


ものぐさ、怠惰のすすめ。

●6時に目覚めた。昨夜は宝蔵寺の除夜の鐘をききながら寝てしまった。

最近は昼間でもコタツに入っていると、つい……ウトウトすることがある。

むかしのように、睡眠時間をつめて仕事をするということは、どうも胃に悪影響をおよぼすようなので、止めた。

そのうえ、いつでも眠い時にはうたた寝をするようにした。

●ダラシナイったらありやしない。これで、ヨダレでもたらして寝ていたら、まるっきりボケ老人だ。

●なにか、元旦早々おかしなことを書きだしたが、覇気のないことをいっているが、怠けることはたのしい。

じぶんが老人だと言うことをすなおに認めて置くのも、必要かなと考えるようになってきたということです。

●この心境は、カミサンがわが家の庭に迷いこんで来た三毛のそれはそれはかわいらしい子猫を、家に入れたことに始まります。

リリと呼んでいます。みるまに大きくなり、いままさに遊び盛り。家の中をかけずり回っています。だきあげるとその毛並みのふわふわして柔らかいこと。歯も白く光っています。

●ブラッキーは人間の歳に換算すると、たぶんわたしよりお姉さんです。

かわいそうに、一番尖っていて鋭かった歯も抜けてしまいました。毛並みもわるくなりました。ブラッキーというくらいですから、黒猫です。それが茶色味をおびて来ました。

白毛さえ混じっています。いちばんかわいそうなのは肉がオチ、骨ばって来たことです。背中の骨がごつごつしてきました。痩せてきたのですね。家の中を走り回るようなことはありません。

●そして、ブラッキーにあらわれた老いは、人間であるわたしにもすべてあらわれています。

●そこで、猫を真似てわたしも自堕落に生きることにしました。

あまり気負わずに。

小説を書くときだけは永遠の文学青年。

生涯現役をつらぬく覇気はあります。ご安心ください。

●あらためて、ことしもみなさん頑張ましょう。

では、いいお正月をお過ごしください。

●塾生、そして卒業生のみなさんも、ブログの読者のみなさんも、みんなみんな元気にいい年をお過ごしあらんことを、今年一年がラッキーでありますように。


1月15日(昨日14日の出来事)

だれか子猫のリリを知らないか(リリの失踪)

●あわただしく朝食をすませた。

「いまいけば、朝一番に診てもらえるわ」

カミサンが、手提げ袋を持ってきた。

「リリに、餌はやらないほうがいいのかな」

「不妊手術だから、食べさせないでいきましょう」

リリは恨めしそうにわたしの手もとをみている。跳び上がる。わたしはリリの餌皿をタンスのうえに置いた。

「袋にいれたのでは可哀そうだわ。抱っこしていきましょう」

「コマ紐でつないでいこうか」

「大丈夫よ。ミユもブラッキーもかかえていったじゃない」

「わたしが抱っこしていく」

門のところで交代した。かみさんは毛布を用意してきていた。リリは不安そうに、でも「ンン」とカミサンの顔を見上げて鳴いた。リリはなぜかニャオと猫の鳴き声が出ない。生後三月ぐらいで、わが家の玄関に迷いこんで来たのだった。

「こんなにおおきくなって、もう赤ちゃん産めるものね」

「ごめんな。パパに働きがあれば何匹でも赤ちゃん産んでいいのに」

そのかわり、リリとはずっと一緒だからな。あと、20年は長生きないとな。

カミサンはリリにほほを寄せて歩きだした。

わが家の前の袋小路から――。青空駐車場を横切って通りにでた。

大通りの方ですごい音響が高鳴る。道路工事をしていた。

騒音がひどかった。

カミサンが悲鳴をあげた。

リリが車道にとびだしていた。

車が来た。

リリがすばやくこちらに引き返してきた。

わたしは一瞬リリがひかれたと思った。

そのイメージが脳裏にキラメイタ。

でもそれはなかった。リリはそのまま家と家のあいだの狭い隙間にとびこんでいった。それっきりリはわたしたちの視野から消えてしまった。

カミサンは「リリリリ」と泣き声であたりを探して歩いた。

「リリリリ」いくら呼んでも――。リリは姿をあらわさない。もどってこない。どこにいったのかわからない。

家に帰ってみると昼近くなっていた。

カミサンは涙をポロポロこぼして泣きだした。

「キャリーケースを買えばよかったのよ」

そう言うと、また、声を上げて泣きつづける。

それから、なんども付近を捜しに出た。近所を捜し歩き、なかなかもどってこなかった。黄昏どきになってももどってこない。

壁にそって置いてあるタンスの上でリリの餌皿が光っていた。斜陽が窓ガラスごしに射しこんでいた。わたしは固形餌の小さな山をくずさないように、そっとかかえこむ。水飲み皿のよこに置いた。

餌と水飲み皿をみて「まるで影膳のようだ」と思ってしまった。

あわてて、その不吉な考えを捨てた。      

裏庭のデッキでカミサンがよわよわしく「リリ」と呼ぶ声がしていた。

声は涸れていた。

涙も涸れているだろう。

「今夜は、眠れないわ」

かみさんがしわがれたこえで嘆いた。

1月16日 金曜日

子猫のリリを失った悲しみ。

●カーテンを、階下の東の隅の寝室で寝ているカミサンを起こさないように、気をくばりながら静かに開く。それでも噛みしめた歯のあいだから、猫が漏らす威嚇のような「シャ―」という音がした。

●わたしの書斎は二階の角部屋に在る。

北はずっと以前に火事で7軒あった長屋が火事で全焼した。

そのまま空き地になっている。

東も空き地。

その向こうが青空駐車場になっている。

朝の太陽をあびて冬枯れた草が茫々と大地をおおっている。

リリが道路工事の騒音と車のエンジン音に驚いて、カミサンの腕の中から逃げ出してから2昼夜が過ぎてしまった。

●昨日は午後から冷たい雨が降りだした。

眼下の東側の駐車場の端に側溝がある。

水は流れていない。

リリはその辺り、わが家から50メートルくらいしか離れていない場所で姿を消した。

死の恐怖におそわれ、まるで弾丸のような速さで家と家の間の隙間に跳び込み消えていった。

●「この雨で濡れないかしら」

「猫だから身を寄せる場所を探しあてているよ」

「寒いわ」

「毛皮をきているのだから……」

「凍え死んじゃうわ」

「心配ないって」

「死んじゃうわよ」

「恐い体験をすると一週間くらい縁の下にもぐりこんで、でてこない猫もいる。とインターネットで調べた」

「調べてくれたの」

「その猫の好きな食べ物をもって名前を連呼して歩くといいらしい」

「そんなことまで書いてあるの」

「あす晴れたら、削り節をもってもう一度、あの空家の周辺を捜してみよう」

「ねえ、わたしがつくったサッカ―ボールがこんなにあるの」

カミサンの手のひらには、紙を丸めてリリが咥えられるくらいにテープで丸めたボールがあった。それを床に置いてはじくと、前足ではじきかしてくる。喜々としてカミサンは子どものように遊んでいた。ついぞ聞かれない笑い声が家のなかにしていた。

●リリのふわふわした布製のベッド。

リリの破いた障子。

きちょうめんなカミサンはすぐに桜の花の切り張りをした。

障子の桟をつたって天辺まで登りつめたリリのヤンチャの爪痕。

いままで、元気に飛び跳ねていたリリがいない家の中はさびしくなってしまった。

「泣くのはいいが、いつまでも嘆いているとまた風邪が悪くなる」

カミサンは三カ月もかぜで咳が止まらない。

「だって、悲しいんだもの」

少女のようにわたしの胸に顔をふせて泣きじゃくっている。

物は焼却しない限り、直にはなくならない。

生きモノはそれを「失った」ときの寂しさは耐えられないものだ。

いままでいたリリが不意に消えた。

まだ生きていると信じているから、ケガをした訳ではないので――死んではいない。

必ずまだ生きている。

ひょっこりと、迷いこんで来たときのように玄関先にあらわれる。

「もどってくるよ」

「気軽にいわないで。探しに行きましょう」

「あした晴れたらもちろん行くさ」

「キットヨ」

1月16日 金曜日

「リリ、ミーツケタ。オウチに帰ろうよ」

●「リリ、ミーツケタ。オウチに帰ろうよ」

書いてみると、……なんてことない。だが、簡単なことではなかった。

わたしはあばれるリリにひっかかれ、ほほに爪痕、血をながした。

切られ与三郎。血は顎の方までしたたった。

必死でリリを抱き締めていたので、痛みは感じなかった。

「帰ろうな。家に帰ろうな」

カミサンが安心したのか泣き声をあげている。

●リリを捕まえる手助けしてくれたお隣のYさん。

Kさん。

心配して声をかけてくださったご近所のみなさん、ありがとう。

今朝、食事をすませてから、削り節の袋をカミサンが手に、リリをさがしに出発した。

リリが逃げてから三日目になる。

工事現場の轟音とトラックのエンジン音を初めて耳にしたリリは恐怖のあまりカミサンの腕から跳びだした。危うく車道の中央でトラックに轢かれるところだった。

●よく踏みとどまり、こちら側に逃げ戻ったと思う。

あのとっさの判断が生死の分かれ目だった。

F印刷屋さんと空家になっている、元、越後屋さんのあいだの狭い空間に跳びこんだ。

猫なら通れる。犬ではむり。ほそく狭い。この辺から、移動する訳がない。

猫は怯えると、その場から動かないで、一週間も居た。そんな習性があるとインターネットで調べた。

●まちがいなく、越後屋さんの空家に居座っている。そう判断して二人で家をでた。

Yさんが隣とのヘンスにある扉を開けてくれた。

「リリ、ママだよ。リリ、ママよ」

カミサンが削り節をヘンスのうえや、地面に置いた。

「リリ。リリ」

鳴き声がした。あまり幽かなので小鳥の鳴き声にきけた。

ニャアと猫の鳴き声ができないリリだ。

「リリだ」

「リリだわ、いた、あそこにいる。どうする。どうする」

カミサンは泣き声で感極まっていた。

カミサンがブロック塀をこえて、リリを捕獲した。

わたしが、受け取った。スゴイ暴れよう。

おかげてGGは切られ与三郎。

皺だらけのオイボレの頬に血がしたたった。

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