第18話リリのお帰り。

4月21日 火曜日

リリのお帰り。

●昨日の夜半。

帰ってこないリリを心配していたが――。

どうも、おちつかない。

リリの不在を案じるあまり……ということで。

酒にした。

酒にしたと言っても。

菊水の200㏄一缶だ。

金色缶。

赤缶よりも50円安い。

それにヤキトリの缶。

締めて400円以下の贅沢。

テレビは「デート」が終わってからは見ていない。

ほんとうは、ドラマを見ながら、チョビリチョビリ飲みたいのだが。

●書きかけの小説のことを考えていた。

どうしても、吸血鬼が登場してしまう。

リアリズムで書きたいのだが。

悪人を生の人間として書くだけの、手法がいまのわたしにはない。

悪いことをするのは、吸血鬼とすれば、わたし的には納得できる。

でも現実は人間が吸血鬼に勝るとも劣らない行為をしている。

とは……思いませんか。

●猫にはそれはない。

猫の生態は平和そのもの。

威嚇する。

噛みつく。

くらいのことはあっても。

同族で殺し合うなんてことはしない。

●「パパ。リリチャン帰って来たわよ」

カミサンの声で起こされた。

●リリはしたり顔でカミサンの腕の中。

「ドウ、パパ、あたしの逃げ足速いでしょう」

と誇らしげにこちらを見ている。

「オソトのクウキオイシカッタワヨ。マタオンモニダシテネ」

●「出したのではなく、脱出したんだろうが」

と酔った、だみ声でいったが、リリはにゃんとも応えない。

お澄まし顔。

4月27日 月曜日

ブラッキーがGGを起こし、リリがカミサンを起こす朝。

●朝の目覚めはだいたい表題のとおりにやってくる。

歳のせいなのか、怠惰になれ親しんでしまったためなのか、最近では睡眠時間が長くなった。

6時間は寝床にいる。いるというのは、その時間の間、熟睡しているわけではないからだ。

寝床で本を読む。これは子どものころからの習慣で、わたしはGGとなった今日まで、机に向かって読書したことがない。

インプットはすべてベッドでしてきた。

だから寝床が書斎にあるのか、書斎の片隅にベッドがあるのかわからない。

(冬の間は階下のホリゴタツが勉強の場となる)

疲れると、身近な寝床へ。ということで、冬はコタツで寝ている。怠惰な日々をくりかえしている。

上着とスラックスを脱ぐだけ。パジャマに着替えるというようなことはついぞしたことがない。

寝る前に歯を磨く習慣がなかった。

だから、歯はぼろぼろ。

もはや、5本くらいしか残っていない。

何本残っているのか、そうしたことにはキョウミがない。

●さてと、今朝は4時に起きた。

ブラッキーと、トコトコと階段を下りる。春になったので、二階の書斎に寝起きしている。

早くトイレに行かないとチョビリそうなのだが――。

ブラッキーが餌皿のそばに座ってGGを見上げている。

急いで固形餌を一つかみ皿におとす。

トイレの廊下のドァを開ける。

もどってくると、廊下にリリがきている。

●それからしばらくして、カミサンのお目覚め。

一日が動き出す。

●今日も、いい小説が書ける予感がする。

5月23日 土曜日

猫は史上最愛の寄生獣。

●猫は史上最愛の寄生獣ではないかと最近思うようになった。

ふわふわのからだでスリスリされただけで、もうわたしは参ってしまう。

かわいいなんてものではない。

猫のためならなんでもしてやりたくなる。

人間に寄生して生抜いて来ているだけのことはある。

●犬のようにいっしょに散歩するわけではない。

場合によっては空き巣を撃退するわけでもない。

功利的なことはない。

●でも、ただ生活をともにしているだけで、おおきな癒しをもたらしてくれる。

ともかく、猫のしぐさをみていると楽しくなるのだ。

●そうか、リリがきてからカミサンの起床時間が早くなった。

リリは目覚ましの役目をりっぱに果たしている。

目覚ましのメカニックな音で起こされるより、リリの甘噛みで起こされたほうがどんなにいいだろうか。

リリの肉球でモミモミされて、起こされると「早過ぎるよ」と不満をもらしているが、カミサンのリリを見る顔は、猫、カワイさに満ちみちている。

●わたしもブラッキーにいろいろ奉仕しているが、それが億劫ではない。

外から帰って来たブラッキ―が、引き戸をあけてやると一声「ニャン」とあいさつする。

それをきいただけで、もうメロメロ。

「よく、早く帰って来たな、だれにもいじめられなかったか」

――なんて訊いている。

●寄生されてこんなにかわいい動物はいない。寄生と言うより寄宿ということかな?

なんでもしてあげたい。

こんな気持ちにわたしたちをさせるなんて。

やはり猫はさいこうに進化して寄生獣だ。

5月28日

子猫を100匹も殺して埋めた老婆が室蘭にいた。

●ショッキングなニュースだ。ごぞんじのかたも多いと思うが、北海道の室蘭での話だ。

女(72)が逮捕された。飼い猫が産んだ子猫を10年間にわたり100匹も殺していたというのだ。

●はじめ、このニュースの冒頭を読んだ時に、街猫を殺したのだろうとおもった。しかし事実はちがっていた。じぶんのところの、飼い猫が産んだ子猫を殺していたのだ。

●たぶん、猫が好きですきでたまらない老婆なのだろう。ただ、不妊手術をするお金がなかったのではないかと推察した。わたしのところでも、リリが迷いこんできて飼うことになった時、ブログに書いて置いたが、手術代を払うのはたいへんな負担だった。わたしは在る事情があって国民年金に入っていないので、そのほうからの収入はゼロだ。生活はしたがって楽ではない。それでもメスの飼い猫は不妊手術してやるというのが、やはりどうしても必要だと思っている。

●先代のミュ、ブラッキーもいちどは子猫を産むよろこびをあじあわせてあげた。子猫に授乳しているときの母猫の目を細めた慈愛に満ちた顔を見るのが好きだった。でもリリにはその喜びをあたえてやる余裕がなかった。塾生も少なくなっているので、子猫を貰ってくれる人を探すことはできない。この街は犬好きのひとは多いのだが猫好きはすくない。VIVAのペット売り場でも、猫はほとんど置いていない。売れないのだろう。

●さて、話題をもどすが、くだんの老婆も好き好んでサデステックな心理から子猫を殺していたとは思えない。貧困という悲しい現実があったのだと思ってあげたい。

●街によっては、猫の不妊手術代に補助金をだすところもあるときいている。

●いずれにしても、猫クレイジィのわたしにとっては、いろいろ考えさせられる話題だった。

●今朝も、ブラッキ―とリリは朝の散歩にとびだしていった。

わが家の裏には草茫々の千坪近い空き地がある。

田舎住まいなので、外に出してもあまり近所迷惑にはならない。

それでも帰って来るまでは、色々心配する。

ムクムクの猫ちゃんを抱き上げる。

ほほずりすることを思いながら――。

小説をこれから書きだすところだ。

●ブラッキーとリリとカミサンとわたし。

四人の日常が今日もはじまったばかりだ。

歳のせいか残酷な話題には気が滅入ってしまう。

今日も、なにごともなく、平平凡凡な日でありますように。

6月26日 金曜日

駅長「たま」の死を悼む。

●「たま」の訃報をきく。

いわずとしれた、和歌山電鉄の駅長のたまだ。

「16歳は人間なら80歳ほど。天寿全うだろう」ときょうの天声人語。

わが家でもかわいい三毛猫を飼っている。

生後三月くらいで迷いこんできた。

玄関先で、アタシ帰って来たよ、というように鳴いていた。

じぶんの家に帰ってきたような、ここがわたしの、終の棲家ときめこんでいるような態度だった。

猫好きのカミサンが放っておけるわけがない。

「わたしの猫が迷いこんで来たのよ」

以来、三毛猫リリはカミサンとともに寝食をともにしている。

わたしには黒猫のブラッキーがいる。

16歳。たしかにからだが弱って来ている。

人間も80歳になると――いつ死んでもいい歳だ。

――などとテレビのコメンテーターに言われてしまう。

たしかに、わたしのまわりでも今年は、鬼籍に入った友だちがおおい。

でも、いつ死んでもおかしくない、などと言われると憤然とする。

わたしは、昭和八年六月二十二日生まれ。

夏至の日だ。

パソコンで調べたらかなり暑かったらしい? 

その年の最高気温だったとある。

「暑い日でね、生まれてすぐに暑さで霍乱して、大騒ぎだったのだよ」

よく、母にそうきかされた。

霍乱、カクラン、日射病のことだ。

いらいこの歳まで頭は攪乱続きだ。

これからも小説を書きつづけていく。

毎月雑誌の締め切りに追われた四十代の気力は衰えていない。

それなのに――嗚呼、いつ死んでもおかしくない――。

なんていわれたら――。

でも誕生日を22日にすませて82歳になったGGの年から言ったら、

無謀な希望なのでしょうかね。

110歳まで生きて書きつづける。

ノウテンキなGGはそうは思っています。

コリナイGGですよね。

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