夜の友人

一体、いつからその子と手を繋いでいたのか分かりません。

でも気づけば、ぎゅっとその小さな手を私は握っていました。

そこは夜の草原。

気を抜いてしまえば、このまま星空に落ちてしまいそうな場所でした。

依るべき物も無く、自分の身体が本当に此処にあるのかすら怪しくなるような……。

そんな夜の中、ただその手だけを握って歩いていました。

「不安なの? 自由だから? 綺麗だから?」

不意に、隣からそんな声が聞こえてきました。

それはとても懐かしくて、でも新しくて……。ただ、少なくとも私はその声を知っていました。

「そりゃそうだよね。でも、もうすぐ、またお別れ」

視線の先、地面と空の間が白み始めています。

まもなく朝が来ます。

それに伴って、繋いでいる手も、次第に感触が無くなって行きました。

「大丈夫……大丈夫。『大丈夫』って私が言うのも可笑しな話だけれど、大丈夫。……振り返るのは、私が居なくなってから、ね」

何か言うべき言葉があるような気がしたのですが、私はその声に終ぞ返事をすることが出来ませんでした。




朝焼けの草原。

旅の途中、迷い込んでしまったこの広大な草原を、私は一人振り返りました。

立ち止まるわけにも行かず、孤独と不安を抱えながらも夜通し歩いたおかげで、どうにか昼前には次の街に着きそうです。


「……ありがとう」


何だかとても久しぶりに声を出したような気がしました。

その声は風に運ばれて、まだ夜が残る草原へと消えていきました。

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