一人の街

その街がとても栄えていて平和だったのは、

全て「彼」が決めているからでした。

「彼」は一人一人の朝食から、仕事、スケジュール、果ては結婚相手まで、

全てを街のためになるように決めていました。

人々も「街のためなら」と言って、それに従いました。

もちろん、旅人の私にさえ、「彼」は事細かに言ってきました。

泊まる宿、食べるもの、訪ねる名所、明日起きる時間……。

冗談じゃありません。私はすぐに街を出ました。

それからしばらくして、「彼」が亡くなったと風の噂で聞きました。

あの街は、今はもう地図にはありません。

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