世界の終わる街
物々しい雰囲気でした。
大人から子供まで、その街の人達は皆、手に武器を持っています。
「さあ、早く! バリケードを!」
たった今私が入ってきた唯一つの門も塞がれてしまいました。
その即席の壁の向こうには、長閑な田園風景しか広がっていません。
「旅人さん、さああんたもこれを持ってくれ。今は猫の手も借りたいんだ」
そう言って、私にも武器が渡されます。
それは小さな小さな銀のフォーク、でしたけれど。
一体、何が起こっているのでしょう。
「今日の夕暮れ、世界が終わるんだよ!」
はい?
「この街一番の占い師がそう予言したんだ! もうすぐ化け物の大群がこの街を襲うんだよ!」
それだけ私に伝えると、その若い男の人は忙しそうにどこかへ行きました。
一体全体どういうことでしょう。
もっと詳しく話を聞きたいところですが、誰もかもが慌ただしく走り回っています。
確かに、この街は占いで有名な街ですけれど。
占いって、そんなに……そんなにですか?
「世界は終わらないよ」
呆然と立ち尽くす私に、一人の男の子が話しかけてきました。
誰もが慌てふためく中、その男の子だけは冷静なようでした。
「旅人さん、残念な時に来たね。今この街は馬鹿なんだよ」
どこまでも冷めた調子で話し続けます。
「誰かが最初に『終わる』って言っちゃったんだ。そしたら後は芋づる式だよ。みんな『終わる』って言い出した」
でも、それってたかが占いでしょう?
「……占いの力じゃないよ。『終わる』って言葉に対しての不安だよ。小さな不安が広がって、数が増えて、ぼやけちゃって。もう誰もそれが本当は何だったのか確かめようとしないんだ」
そして、ため息をついて。
「不安は無くさなきゃならない。その為に何かしなくちゃいけない。それが共通認識であればある程、不安になることが義務になっていくんだ。……そして希望を言う奴が馬鹿にされるんだよ」
世界が終わる、夕暮れ。
それは当然、世界が終わるはずだった夕暮れになりました。
街の人達は、血走った目で、最初の言い出しっぺを探しています。
それは、武器を手に世界の終わりへの準備をして居た時よりも滑稽な光景でした。
誰もが皆、それぞれに武器を持って、互いを疑いあい、罵りあっています。
まるで化け物の群れのような光景でした。
「……なんだ。当たっちゃったじゃん」
その喧騒の中、先ほどの男の子の声が聞こえてきました。
私は振り返ることなく、すぐにその街を後にしました。
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