結論なき「愛」

 最初、★だけ入れて去ろうかと思った。

 確かな表現力と感性で綴られる様々な愛の話は切なくも心地よく、独特の浮遊感に浸らせてくれる。だがそこに結論は無い。それぞれの物語に結末じみたものはあるが、読み手の感覚がどこかにストンと落ち着くことは無い。ぷかぷか浮いたままになった僕の感性はこの掌編集を好ましく思いながらもどこが好ましいのかを地に足のついた言葉で表現することが出来ず、それゆえに好いているという結果だけを残して立ち去ろうと思った。

 だけど一つ気づき、言葉を残すことにした。感情に明確な結論が出ないこの感覚。もしやこれは「愛」と呼ばれるものと同じなのではないか、と思ったのだ。

 きっと「愛」は原因であり、結果でもある。愛しているから愛している。そういう言葉遊びのような状態に陥る瞬間が人生には確かに存在する。入口と出口が繋がった迷路。そこに何かしら結論を求めること自体がひょっとすると野暮であり、そう言った意味でこの掌編集は「愛」の本質を真に捉えているのではないか。そんなことを、ふと考えた。

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