愛することも、愛されることも、愛せないことも、愛されないことも、どれも切ないことで「孤独」なものなのだと感じられる短編集です。
「愛」という人との関わりがもたらすものは、もちろん幸せや喜びもあるでしょうが、この短編には「孤独」がより際立って感じられます。
ですが、決して冷たいものではなく、どの作品にも読む側の心にお湯を注いでくれるような、不思議な心地よさがあります。
それはきっと、「孤独」というのは決して一人きりではなり得ないものだからでしょう。
誰かがいてこそ、その人との関係に迷い、悩み、不満を持ち、そうしてそれが孤独へとなっていく。
生きていれば誰かと関わらなければならず、そのために誰でもきっと「孤独」を抱えているでしょう。
そういう心のやわらかい部分に、そっと触れてくれるような作品集です。
また、どの作品にも生活の匂いがあり、それが作品に確かな体温を与えていました。
だからこそ、「孤独」にもより一層深みが与えられています。
喜怒哀楽にあふれた愛の話です。哲学的な愛もあれば、現実的な愛もあり、そしてなによりも心が痛くなる話も含まれています。
すべての愛が成就するわけではありません。また成就していたはずの愛が崩れ去ることもあります。成就していたはずの愛はまがい物であり自らの手でぶち壊したくなることだってあります。
人間は、誰かを愛さずにはいられないんです。
しかし愛は相手がいて成立するものであり、一方通行ではなく双方向で成り立つものです。誰かが幸せになれば、その傍らで誰かが不幸になっています。
この物語を読むことで、あなたは複雑に絡み合った愛が人間関係のなかで変化していくさまを見届けることになるでしょう。
最初、★だけ入れて去ろうかと思った。
確かな表現力と感性で綴られる様々な愛の話は切なくも心地よく、独特の浮遊感に浸らせてくれる。だがそこに結論は無い。それぞれの物語に結末じみたものはあるが、読み手の感覚がどこかにストンと落ち着くことは無い。ぷかぷか浮いたままになった僕の感性はこの掌編集を好ましく思いながらもどこが好ましいのかを地に足のついた言葉で表現することが出来ず、それゆえに好いているという結果だけを残して立ち去ろうと思った。
だけど一つ気づき、言葉を残すことにした。感情に明確な結論が出ないこの感覚。もしやこれは「愛」と呼ばれるものと同じなのではないか、と思ったのだ。
きっと「愛」は原因であり、結果でもある。愛しているから愛している。そういう言葉遊びのような状態に陥る瞬間が人生には確かに存在する。入口と出口が繋がった迷路。そこに何かしら結論を求めること自体がひょっとすると野暮であり、そう言った意味でこの掌編集は「愛」の本質を真に捉えているのではないか。そんなことを、ふと考えた。
掌編集形式の本作では、見るべきは作品そのものよりも作者自身であるのかもしれない。
実はかつて(16年4月)、自分は本作をキャッチコピーなしの★ひとつで評価していた。その時点では、冒頭二話しか掲載されていなかったはずである。
本日たまたま、話数が増えた本作を読み、その内容の変貌ぶりに驚き、レビュー内容を改めることにした次第である。作品の変貌とは、作者の成長であると言えよう。それを目の当たりに出来たことに軽い興奮を覚えた。
特に冒頭二話と、それ以降の作品では、段落頭一字下げのあるなし以上に、作品としての出来、表現の仕方が違っていた。
この、作者自身の変化を感じたことこそが、個人的にはひとつのスペクタクルであり、なるほどWeb小説という形式ではそういったことすら楽しむことが出来るのかと発見できた。
曇り空の下で撮影された映像のようにくすんだ世界で、自分のことも相手のことも分からないままに愛を語ろうとする登場人物たちの言葉は、実があるようでいてとらえどころが無く、空疎と呼ぶにはいささか悲痛に過ぎる。リズム感の悪い壊れたメトロノームのように、彼らは迷っている。
これらの物語は、なにか明確なものを読者に突きつけることはない。ここからなにを見いだすかは、作者ではなく読者にゆだねられているのだろう。物語は、迷うが故に結論を持たない。それは書かれていない。だが書かれなかったことによって、読者の胸の裡に物語が描き出されるということは、あるのである。
冒頭のチョコレートと蟹へのアレルギーの話が実感があって引き込まれて、そのまま一気に読みました。
そして「彼女は愛しているを言いすぎる」の言葉に何故か胸をつかれて。
ラストの「ばかだな」で唸りました。
あの決め台詞、ばしっと決まってた。
でも、それは台詞に頼ってのことではなくて、語り手の心情に共感ができたから。この作品は、とくに語り手の”変化”が見事に表現されていると思いました。私もこんなの書きたい。
三篇とも、ハッピーエンドとまでは行かなくても、語り手の何らかの決意を感じさせる終わり方で、爽やかさみたいなものを感じました。
とても面白く拝読させていただきました。
きっと、みんな誰かを愛しているんですねえ……。