なにかを語りかけるようでいて、愛は沈黙し続けている。

 掌編集形式の本作では、見るべきは作品そのものよりも作者自身であるのかもしれない。

 実はかつて(16年4月)、自分は本作をキャッチコピーなしの★ひとつで評価していた。その時点では、冒頭二話しか掲載されていなかったはずである。
 本日たまたま、話数が増えた本作を読み、その内容の変貌ぶりに驚き、レビュー内容を改めることにした次第である。作品の変貌とは、作者の成長であると言えよう。それを目の当たりに出来たことに軽い興奮を覚えた。

 特に冒頭二話と、それ以降の作品では、段落頭一字下げのあるなし以上に、作品としての出来、表現の仕方が違っていた。
 この、作者自身の変化を感じたことこそが、個人的にはひとつのスペクタクルであり、なるほどWeb小説という形式ではそういったことすら楽しむことが出来るのかと発見できた。




 曇り空の下で撮影された映像のようにくすんだ世界で、自分のことも相手のことも分からないままに愛を語ろうとする登場人物たちの言葉は、実があるようでいてとらえどころが無く、空疎と呼ぶにはいささか悲痛に過ぎる。リズム感の悪い壊れたメトロノームのように、彼らは迷っている。
 これらの物語は、なにか明確なものを読者に突きつけることはない。ここからなにを見いだすかは、作者ではなく読者にゆだねられているのだろう。物語は、迷うが故に結論を持たない。それは書かれていない。だが書かれなかったことによって、読者の胸の裡に物語が描き出されるということは、あるのである。




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