峯なる国で食堂を営んでいた朱宵鈴はその腕を買われ、先代の帝たる暁王の料理人に取り立てられた。
狂人であるがゆえに禅譲を迫られたという暁王は、現帝に毒を盛られた結果、子どもさながらの無垢と化していたのだ。
朱宵鈴は料理を出し続け、暁王との平穏な日々を過ごすのだが――
叛乱の勃発により、その旗印とされかねない暁王の毒殺を命じられる。
テーマがタイトルそのままという、非常によくできた構成に目を惹きつけられました。
そして、主人公と暁王の会合シーンはすべて食卓という潔さを始め、1万字弱の短編にここまでの「色濃さ」を演出してのけた筆力にもです。
主人公の心情が細やかで濃やかなんですよね。だからこそ、彼女の最後の選択に説得力がありますし、叙情がある。
主人公にきちんとピンスポを当ててひとつのテーマを書き切れる人は希少なので、その点にぜひ注目してお読みいただきたいところです。迷わずオススメさせていただきますよー。
(目を持って行かれた“テーマ”4選/文=髙橋 剛)
ニヤニヤしました。
と言うのも、自分が抑えている時代、東晋末。
思いっきり似た末期を遂げている皇帝がいるのです。
安帝と、恭帝。
二人は兄弟で、兄はこの物語にも出てくるような精神退行者。
弟はその兄をよく支えたが、兄暗殺後、将軍「劉裕」に
皇位を禅譲する役として飾りの皇帝に据えられ、
そしてやはり殺されます。
この物語の印象としては、この二帝のエピソードが合わさった感じ。
逆に言えば、史書の中では「暗殺されました」程度でしかない
エピソードの中に、朱宵鈴のような思いを抱えた人も
いたのだろうなぁ、などと思うのです。
特に恭帝暗殺に際しては、
朱宵鈴に近い立場の人の事跡が残されてもおり、興味深いです。
その方は恭帝の毒殺を仄めかされたので、自らがその毒を仰ぎ、
死ぬ、と言う振る舞いに出ましたが。
歴史と物語が出会う面白さを感じました。
腕のいい料理人が、廃された帝に料理を供するために連れ出されて……仮想中国史とでもいうべきか、とても出来の良い一万文字に満たない短編時代小説。
まずタイトルが、詩的でありつつ内容をよく反映しており、たいへん惹かれる。
素直な文体は読みやすく、するすると先を読み進めてしまう。描写の力加減では、少々の物足りなさがなくはなかったが、Web小説ならこのくらいが適正かもしれない。個人的にはもう少し密度があった方が好みだが。
語られるエピソードは、中国史上に実在していてもおかしくないような、歴史の暗部めいたもの。実に「それっぽい」風に書けていると思われた(ただ本当の中国史だったら、料理人は生きては帰れなかっただろう……)。
短編は構成がキモだと思うが、冒頭から料理人の不安、先帝の実態、叛乱の経緯、そして最後の場面へ続く料理人の葛藤と、読者の興味を惹く要素が途切れることなく配されており、構成力やセンスを感じた。
ごちそうさまでした。