愚かだが、それ故にいっそう尊い人。

毒薬を飲まされ、かつての鋭敏さを失った若き廃王。

子供のような言動の彼は「白痴」のムイシュキン公爵などの聖痴愚の系譜のキャラクターですが、姿には端厳美を残しており、無邪気さ故に孤独で不幸な人生が浮かび上がる哀しさが漂います。

料理人のヒロインが死に行く廃王を抱き締める姿には母親のような情と女性としての思慕が綯い交ぜになった印象を受けます。

毒殺を指示する臣下が口封じにヒロインを殺す等の仕打ちに出ないのはこうした謀略物にしては甘い気もしなくはありませんが、廃王以外の人々にとってはむしろ生き続ける方が悲哀が色濃く滲む結末なので余韻深くて良いです。

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