なんでデビューしてないの?この人

 レビューのPR文に作品じゃなくて作者のことを書くのもどうかと思ったのですが、作品を読み終えて一番最初に感じたことがそれだったので素直に記します。「感染性バスジャック症候群」から作者繋がりで読んだ作品ですが、この人、その辺の商業作家より絶対に力あります。本当にデビューしていないならとんでもない逸材を見つけたと言わざるを得ません。PNが独特なので本来のPNをアナグラム的に弄った商業作家の戯れ説を僕は捨てていませんが。

 さて、作者のことでレビューを終わらせるのもどうかと思うので、作品に触れましょう。やっていることは単純。7本単位で掌編が1つに収束する。その繰り返しです。ついでに最後に大きな収束もあり。その掌編のまあバリエーション豊かなこと!そしてその収束の見事なこと!掌編の区切りの際は毎度のように「ほう……」と感嘆の溜息が漏れます。

 もちろん本作の魅力は伏線回収の妙だけではありません。掌編一つ一つが確かな筆力によって印象深く書かれているからこそ、最後の回収が生きるのです。作品の世界観は設定やキャラクターではなく単語選択決まるというのが僕の持論なのですが、その単語選択のセンスが造語も含めてズバ抜けています。話のタイトル一覧を見るだけで分かるでしょう?脳みそのどこをほじくればそんな言葉が出て来るんだという圧倒的センスが。

 いや、参りました。感服です。見事過ぎて嫉妬すら湧かない。本当に凄まじいパワーを感じる小説でした。

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