じゃんけんに熱狂する村

作者 カスイ漁池

54

20人が評価しました

★で称える

レビューを書く

★★★ Excellent!!!

7つのエピソードが1つの章を織り成し、6つの章を最終話が束ねる構成。
章の中では、6つのエピソードが互いに独立しており、7つ目のエピソードで「そう言う風に束ねんの!」と軽く驚く。そんな楽しみ方が6回できる。
読了後に振り返ると、どの章も良い味を出している。
先のレビュアーが指摘しているが、「作者の頭はどうなってんの?」と思わせてくれる。支離滅裂にならず、何とも表現し難い一貫性を保つ才覚に脱帽。
ただ読んでいる最中に期待値が上がるので、最終エピソードでは物足りなさを感じるかも。とは言え、レベルの絶対値は明らかに高い。

余談だが、作者の別作品「感染性バスジャック」も面白く、お勧めです。

★★★ Excellent!!!

何を食べて育ったら、こういう作品を書く人になるんだろう?
かすみだろうか。
この人の頭をカパッと開けて中身を見てみたい、と、
異分野ならともかく、小説の世界では久々にそう思った。

私はご都合主義な筋立ての小説が苦手だ。
「特に理由もなく、十分な説明も設定もないままに、何故か」
愛されるとか異性との同居が始まるとかチートな能力を得るとか
タイムスリップするとか異世界転生するとか歴史改変するとか。

要するに、ウェブ小説で流行る系統が軒並み苦手なわけで、
じゃあ何が好きかと言えば、「リアリティある不条理」だけど、
この『じゃんけんに熱狂する村』には何かいろいろぶっ壊された。
価値観とか、いろいろ。

7本セットで、1つのストーリーが完成する。
一見バラバラなショートショートが、予測の裏を掻いて繋がる。
荒唐無稽でメチャクチャなのに、ご都合主義なんかではなく、
理由も説明も設定も飄々と語られるから、妙に納得できてしまう。

ショートショートと言えば星新一、と単純な発想に至ったのは、
「エヌ氏がいる世界の常識」をさも当然であるかのように語る、
あのぬけぬけとした感じを鮮やかに思い出してしまったからだ。
ラーメンズの知的で芸達者で整然としたぶっ飛び方も思い出した。

各話について「こういうストーリーでした」とうまく言えない。
言わないほうがいいし、言っても未読のかたには伝わらない。
とりあえず、なんかこう、ほっこりしたりいい話だったりします。
変な吸引力や中毒性があって、7本読むまでやめられなくなります。

★★★ Excellent!!!

六編の小話が七編目で一つの収束を迎える気持ち良さが素晴らしいです。
そしてまた一つずつの短編もまたハズレなく面白いです。

タイトルだけで「んん?」と引き込まれ、
中身を読んでその設定に思わず「なるほど」、
七篇の登場の仕方に「こうきたか!」。

一つ一つの工程を重ねて作品が出来上がる、まるで折紙のような小説だと思いました。
これは素晴らしいものを知ってしまったぞ。

★★★ Excellent!!!

 レビューのPR文に作品じゃなくて作者のことを書くのもどうかと思ったのですが、作品を読み終えて一番最初に感じたことがそれだったので素直に記します。「感染性バスジャック症候群」から作者繋がりで読んだ作品ですが、この人、その辺の商業作家より絶対に力あります。本当にデビューしていないならとんでもない逸材を見つけたと言わざるを得ません。PNが独特なので本来のPNをアナグラム的に弄った商業作家の戯れ説を僕は捨てていませんが。

 さて、作者のことでレビューを終わらせるのもどうかと思うので、作品に触れましょう。やっていることは単純。7本単位で掌編が1つに収束する。その繰り返しです。ついでに最後に大きな収束もあり。その掌編のまあバリエーション豊かなこと!そしてその収束の見事なこと!掌編の区切りの際は毎度のように「ほう……」と感嘆の溜息が漏れます。

 もちろん本作の魅力は伏線回収の妙だけではありません。掌編一つ一つが確かな筆力によって印象深く書かれているからこそ、最後の回収が生きるのです。作品の世界観は設定やキャラクターではなく単語選択決まるというのが僕の持論なのですが、その単語選択のセンスが造語も含めてズバ抜けています。話のタイトル一覧を見るだけで分かるでしょう?脳みそのどこをほじくればそんな言葉が出て来るんだという圧倒的センスが。

 いや、参りました。感服です。見事過ぎて嫉妬すら湧かない。本当に凄まじいパワーを感じる小説でした。

★★★ Excellent!!!

この人ほどの作品でも出版されてないとしたら、誰でも無理やろ。と素直に思いました。

とにかく伏線の張り方が素晴らしい。
劇団ひとりの小説、「陰日向に咲く」を彷彿とさせるような、誰かの誰か達の物語。
「結」で毎回、テトリスの棒を突っ込んだ時のような爽快感を与えてくれます。

一体、どんな神通力を使えばこんな物語が書けるのか。うまい。うますぎる


「カスイうめえ」と俺は言った。

★★★ Excellent!!!

やってくれたな〜〜!!! やってくれちゃったなこの〜〜!! 完璧! パーフェクト! 他になんか言うことある? ないです。素晴らしい!
これ読まないのマジで人生の損なので、頼むから読んでくれ。良かった〜〜!!

以下従前のレビューです。

 とりあえず収束の話をすると、異常な現実があって、しかし異常でもそれは現実なので、その中に生きている人はその現実を疑うことなく日常として消化していき、そのギャップが面白い、というのが基本的な構造で、そのような非日常的日常が最後に「収束」していくというのがすげえなんなのこれ、という異様なカタルシスを生むという話である。
 だからまあ、さして長くもないし、どう「収束」するのか、この訳の分からない世界が、ということを考えながら読んでみるといいと思う。それでもたぶん、「そこかよぉ」「それかよぉ」という嘆き・驚きは発生すると思う。真剣であればあるほど、このカタルシスは増すのではないかと思っている。ちょっとやってみてくんないですか。

 で、これでフォーマットを掴んで「人生」を読む。二段落目でだいたいやられる。中毒になる。麻薬と同じだ。気が付いたら最後まで読んでいる。そういう感じになると思う。傑作でした。

★★★ Excellent!!!

 巧みな文章と構成で一気に読ませます。バラバラと思われていた話が最後にうまく統合するのが何とも心地いいです。
 特に小説初心者の私には参考にするべき点がいくつも見受けられ、読んでいてとても参考になりました。

 個人的に好きなエピソードは魔法老婆トシコですね。この発想は眼から鱗でした。悪党に足りないのは愛情なので必殺魔法でぶちのめすより老婆の年季の入った慈愛の愛情で包み込んだ方が改心する気がしますね。