魔法使いのデシ
入門から二年、結局気が付くと課題を全てこなした弟子はロックフォーゲルただ一人だった。
「さあ、この課題ができたらお主も卒業、一人前だ」
白い髭を蓄えた老魔法使いは、ロックフォーゲルに言った。彼はたどたどしいながらも呪文を唱え、杖を振るうとテーブルの上に檸檬が一つ現れた。
「おお、さすが最後まで残った弟子。これでお主も魔法使いじゃ。他の者たちもお主のように真面目にやっておればなあ」
「お師匠、お願いがございます」
ロックフォーゲルは、深々と頭を下げた。
「なんじゃ」
「ここまでお世話になったお礼に、もう一つ魔法を見ていただけませんでしょうか」
「よいじゃろう」
ロックフォーゲルは再び呪文を唱え始めた。先ほどよりも長い。途中で老魔法使いは眉をしかめたが、それが何の魔法であるか気づいた時にはすでに逃げるには遅かった。今度現れたのは檸檬でも小動物でもなく、武装した三人の警官だった。
「な、何をしておるんじゃ」
「申し訳ありません、お師匠。最初から、騙しておりました」
警官の一人が老魔法使いに歩み寄る。
「彼には内偵を頼んでいた。最近魔法使いになる研修と称して若者を集め、ほぼ無償で労働させたうえ素質がないからと途中でリタイアを迫りほとんど魔法を教えない、悪質な魔法使いが増えているとの噂があった。そしてお前は、報告によりクロということになった。」
老魔法使いはうなだれ、頭を振った。
「生活が苦しかったんじゃ……。戦争が終わりわしらの活躍の場はめっきり減ってしもうた。近代化によって魔法だけでできることもあまりなくなり、皆に頼られることも……」
「地道に頑張っている者も多くいる。魔法を捨て街で働く者もな。しかしお前、ロックフォーゲルにだけは真面目に魔法を教えたと聞く。何か理由があったのか」
魔法使いはロックフォーゲルの顔を見て、目を細めた。
「こんな才能ある者に出会ったのは初めてでな。他の者に取られたくなかったんじゃ。すでに魔法が使えたのじゃから、筋が良くて当然だったのじゃな……」
「お師匠……」
ロックフォーゲルは老魔法使いの手を取り、微笑んだ。
「他の者に対してしたことは見逃せませんが、感謝もしています。反省ののち、その力、いずれよいことにお使いください」
老魔法使いは目を伏せた。
「では行くぞ」
魔法使いは縛られ、警官たちに連行された。
これが、後に悪の大魔法使いとして恐れられることになるロックフォーゲルについて記された、最も古い記録である。
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