地球は誰に近づくか
次々と宇宙船が飛び立っていく。地球のゴミを乗せて。
その計画は決して、増えすぎたゴミを宇宙空間に捨てて解決しよう、と言うものではなかった。
「本当にこれでいいのかねえ」
船長の栗下は、地球の方を振り返りながらつぶやいた。給料がいいのでこの仕事に就いたが、やりがいというのは感じない。
温暖化解決のため、地球を軽くする。それが「クリーンアース計画」の目的だった。地球が軽くなれば太陽から少し遠くなり、温度が下がるというのである。クリーンと名のついているものの、地球外に排出するのはゴミである必要はないし、ゴミだけではとても足りない。「なんとなくいいことから始める」ことで、世間の了解を取り付けたかったのである。
そして、ゴミの処分としてはコスパが悪い。宇宙船が一回出ると約120億円がかかり、その額は焼却や埋め立てに比べて途方もない。そしてこの成果が目に見えて現れるのは50年目以降とされている。
「なんか、嘘くせえ話なんだよなあ」
どこが嘘かは、栗下には分らない。ただ、なんとなくうさん臭さを感じていたのだ。
「ああん?」
鈍い音がした後、突然、宇宙船が止まった。非常停止装置が働いたようだった。調べてみると、宇宙船後部に何かが衝突して突き刺さっているようだった。
「冗談じゃねえ」
慌てて遮断壁を下ろし、前方の空気を確保する。修理用ロボットを起動して、船外に放出した。
ロボットのカメラから見えたのは、小さな宇宙船だった。見たことのないタイプで、調べても型番が出てこなかった。
「おい、聞こえるか。なんだってこんなとこ飛んでたんだ。中の奴生きてるか」
通信を試みると、応答があった。
「やあやあ、すみませんね」
そして、モニターに顔が映し出された。ウサギだった。いや、知っているウサギとは輪郭とか目つきとかが何か違うのだが、長い耳や毛深いところは、ウサギにそっくりだった。
「なんだ、コスプレか?」
「すみません地球の方。ゴミ拾いをしに行く途中にまさか宇宙船が飛んでいるとは思わなくて」
「いやそのゴミを捨てに行くところなんだが」
「なんと! いえね、私は地球のゴミから役に立つものを拾って月に持ち帰る仕事をしているんですよ。ちょうどよかった、ゴミを少し分けてもらえませんか」
栗下は頭を抱えながら、何回か「ええ?」と声を漏らした。状況がうまく飲み込めない。
「とにかく事故ってんだからよ、宇宙警察呼ぶからそれまで待っといてくれ」
「いやでも、地球の法律は私たちには及びませんよ?」
「ああん? めんどくせえなあ。わかったよ、格納庫開けるから、好きなだけゴミ持ってけよ」
「ありがとうございます!」
ロボットの目の前に、宇宙服を着たウサギの頭の宇宙人が現れた。背中には大きな袋を背負っている。
「なんだってんだ。いや待てよ、月にゴミ持ち帰ったら月が重くなるんじゃねえか? そうすると地球と月の距離が……どうなるんだ?」
五十年後、地球の温暖化が解決されることはなかったし、月と地球の距離は変わらなかったし、月で宇宙人が発見されることもなかった。しかし栗下の宇宙船の格納庫に残された毛については、未解決のままだった。「秘密の研究をしていた誰かが実験室のウサギを捨てたのではないか」と言われているが、真相は不明のままである。
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