最後の花火

 どーん、どーんという音が聞こえてきて、窓の外を見ると小さな花火の輪が見えた。しばらく見とれていると、こつこつと壁を叩く音が。

「この音は花火じゃないか。お前からは見えるのか」

「そっちからは見えないの」

「こちらの窓からは塀しか見えない」

 隣の部屋の人とは時折こうして会話するものの、どんな人だか全く知らなかった。

 どーん。

「黄色くて、丸いよ」

「そうか。俺の故郷では、大きな花火大会があった」

「そうなんだ」

「あの河原ももうないけどな。そもそも誰もいなくなってしまったかもしれない」

「あの花火は誰があげているんだろう」

 この世界にはもう、自由な人間はいない。生き残った人たちはみんな刑務所の中だ。そして、看守ロボットたちは外のことをほとんど教えてくれない。

「ひょっとしたら、ロボットも花火が好きなのかもな」

「そうなのかなあ」

 僕を育ててくれたロボットには、美的感覚なんてなかった。すごい旧型だったから、参考にはならないかもしれないけれど。

 ずどん、と変な音がした。花火はあがらず、地面に炎が広がっているのが見えた。

「なんだなんだ、暴発か」

「そうなのかも」

 炎はどんどん広がって、こちらに近づいてくる。ロボットたちがあわただしく動き回る音が聞こえてくる。

「おいおい、何が起こってるんだ」

「あーあ、最後の花火だったのかなあ」

「俺たち死ぬのか」

「うん、多分死ねるよ」

 まぶたを閉じて、さっきの花火を復習した。今、人生で一番花火が好きだ。

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