本当のサンタクロース

 布団の中で、僕は寝息のまねを続けていた。

 今年こそは。今年こそは起きてなきゃいけない。

 どれぐらい時間が経っただろうか。足音が、こちらに近づいてくる。

 気付かれちゃいけない。必死で眠ったふりを続ける。ごそ、と音がして、枕元に何かが置かれたのがわかった。足音が、遠ざかっていく。

 しばらく時間がたって、布団から顔を出す。いつもの年と同じように、大きな箱が置かれていた。

 僕はその箱を布団の中に引っ張り込んだ。そして、今度は顔を布団から出したまま寝たふりをする。目をつぶって、息を整えて。

 いける。今年はなんか、いける気がした。


「あれ、おかしいな」

 初めてそれが起こったのは、三年前だった。ゆっくりと首を動かした先には、大きな箱があった。そしてその上に、ぼんやりと白い光のようなものが見えた。ゆらゆらと揺れていて、人の顔のようにも見える。

「しょうがない、また今度だな」

 その声は聞き覚えがあった。忘れるはずがなかった。でも、いるはずもなかった。

 おじいちゃんは、もう死んだんだ。

 はっきり見ようと目を見開いた時には、白い光はなくなっていた。夢を見ていたのかもしれない、と思った。

 けれども、一年後。

「今度こそ……あれ」

 また、声がしたのだ。僕はがばっと身を起こしたけれど、そのときには、何もいなくなっていた。

 僕は確信した。おじいちゃんが、約束を覚えていてくれたんだ。

 おじいちゃんはいつでも優しかった。親からプレゼントを貰えない僕のために、毎年何かを用意してくれていた。けれども僕は、友達の話がうらやましくて、こんなお願いをした。

「僕が寝ている間に、サンタさんにプレゼントを置いてもらいたいんだ」

 おじいちゃんは決まって、25日の朝に笑顔で、むき出しのおもちゃを僕にくれたのだ。しばらくきょとんとしていたおじいちゃんだったが、大きくうなずくと「わかった」と言った。

 でも、そのすぐ後におじいちゃんは死んでしまった。

 泣きじゃくる僕に、母は言った。「でもね、今度のお父さんは優しいから元気出して」

 その年から、24日の夜には大きな箱が枕元に置かれて、とっても高価なプレゼントが入っていた。

 でも、でも。

 僕はやっぱり、本当の僕のサンタさんからプレゼントが欲しかったんだ。


 朝の光が、まぶたの間から差し込んできた。目をこすりながら起きたぼくは、思わず「あっ」と叫んだ。

 いつの間にか眠ってしまっていた。

 おなかに抱えていた大きな箱を、床に置く。大きく息を吐いて、天井を見上げた。

 もう一度寝てしまおうか、そう思って枕を手繰り寄せようとした時だった。枕とベッドの柵の間に、ねずみ色の物体があるのに気付いた。手を伸ばしてとってみると、三年前にテレビでやっていた戦隊モノのロボットだった。首筋に、ピンク色のリボンが縛られている。

「相変わらず、欲しくないものなんだよなあ」

 視界がにじんできて、のどの奥が震えていた。

 ようやく僕は、サンタさんからプレゼントがもらえたんだ。

「来年は……せめて箱に入れてほしいな」

 もう一度上を見上げて、天井よりももっと先にいる、サンタクロースにお願いをした。

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