エスツェット

清水らくは

ねぇ、君となら

 君が見付けてくれた湖で。

 僕は間違って黒い服を選んでしまいました。君は生真面目に「死に装束なのに」と言って、白いTシャツを着てきたのに。僕はまた間違ってしまいました。それでも君は、僕を許してくれます。

 君が見付けてくれた湖は、とても澄んでいるけど、世界一綺麗ではなさそうだから、好き。そして君も、世界一ではないけれども、とっても綺麗です。

 でも、二人は途方に暮れました。入水自殺のやり方がわからなかったからです。

「ゆっくり入ってくの? 苦しくなって戻ってきてしまうわ」

「でも、飛び込むような場所もないよ」

「困ったなぁ。経験者に聞いてくるんだった」

 仕方ないので、二人でビスケットを食べ始めました。指をなめる君の仕草が僕は大好きです。

「かえろっか」

 君は言いました。

「そうだね。帰ろうか」

 僕も言いました。

「帰りのチケット、ないや」

「そうだね。でも、ねぇ……」

「ん?」

「君となら、歩いて帰ったっていいよ」

 君は、いつもどおり僕に微笑んでくれました。僕は、今日も幸せです。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る