膝にあうメガネを探しています

「いらっしゃいませ」

「すみません、ちょっとメガネを探しているんですが」

 よくあるショッピングモールのメガネ店にやってきたのは、背の高い青年だった。髪は短く、体格はがっしりしている。何かのスポーツをやっていそうだな、と店員は思った。

「はい、どのようなものでしょうか」

「膝にあうメガネを探しています」

「……はい?」

「やっぱりないですか、膝にあうメガネ」

「え、いやあの……膝の感じとしっくりくるフレームでしょうか?」

 メガネを顔や服と合わせることはある。何とかそのたぐいのことだろうと店員は理解したがった。

「いや、膝がかけるメガネですね」

「膝はその……普通はメガネをかけませんので、うちではちょっと……」

「そうですか。最近膝の視力が悪くなったので。どこか、売っていそうな店をご存じないですか?」

「いやあ、ないでしょうね。膝には目がありませんから」

「え、膝には目がないんですか?」

「ないですよ。目は顔にあるものです」

「顔の目は良好なんです。最近膝の視力が悪いんですが……仕方ないです。人間のお店で探すのはあきらめます」

 そう言うと青年は去っていった。

「まったく、困ったものだ。どこでにおいを嗅ぎつけるものかね、あったとしても、売るわけにはいかないでしょ」

 店員は、肘で見ていた青年の姿が見えなくなると、つぶやいた。


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