八百長

 頭がくらくらした。

 殴られたのだから当たり前だ。でも、殴られる予定じゃなかったからびっくりだ。

 今日は僕が勝つ予定だったのに。だから無名のロシア人キックボクサーを呼んだはずだったのに。

 強かった。困ったことに強かった。

 実はランク入りしてから八百長続き(だって会長の息子なんだもん!)の美形ボクサー(まあ日本一かな)の僕には、正直歯が立たなかった。

 僕が勝つと客が喜ぶので、プロデューサーが根回しして僕が勝つことになっているはずなのだ。けれども……

 鋭い蹴りが、内腿を叩く。痛くてたまらない。ボクサーはローキックに弱いから禁止にしとくって言ったのに!

 何とか1Rはもったものの、2R開始早々、ついに立っていられなくなって僕はその場に崩れ落ちた。何も聞こえない。何も聞かせてくれない。静寂の中、たった一人だった。

 もちろん僕は、二度とそのリングに立つことはなかった。けれども、毎試合観戦にはいった。僕に勝ったロシア人は、その後も強豪を次々と倒し、瞬く間に人気者になっていった。当たり前だ。僕と違って、実力があるんだから。

 そんな彼も、ついに負けるときがきた。しかも、大して実力のない奴に。

 なんで、あんな奴に負けたんだろう

 え、父さんの隠し子?

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