第10話

「どうなってやがる!!」


 三浦ががなった。髪を乱し、白衣がめくれ、コーヒーがまき散らされるが気にもとめなかった。


 筑波研究所の一室。会議室程度の小さな部屋だ。


 8人の部下達が三浦の行動に気づかないと自分に言い聞かせながら、目の前のパソコンで仕事を続ける。


「なんで俺がこんな事しなくちゃならないんだ!」


 回ってきた仕事は現行のTA800の改良という、つまらない‥‥いや、宇宙開拓事業から手を引かされた三浦にとって、今や宇宙開拓の主役であるTAシリーズに関わる事は屈辱以外の何者でもなかった。


 TA820におけるバッテリー駆動時間の延長技術の開発。


 任命された仕事はそれだけだった。


「ふざけるな!ふざけるな!ふざけるな!ふざけるな!ふざけるな!」


 何度も叫ぶ三浦。


「なんのためにこんな会社に残ってやってると思ってるんだ! 今すぐ土下座して許しを請いにきやがれ!」


 吹っ飛ぶゴミ箱。


「俺を‥‥俺を宇宙に! 月へいかせろぉぉぉおお!」




 ムーンベースで次のロケットを待つTA999。


 まだあまり部品が届かず、人を受け入れられるほど施設が大きくなっていなかった。


 青い月。


 モノクロの月面。


 銀色の基地。


 TA999はカメラを青い月に向ける。


 砂嵐のような記憶の中、北畠の映像が一瞬映った気がした。

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