第13話
TA280が発売されたとき、いやその前からマスコミなどでさんざん紹介され、大騒ぎになっていた。
4つ脚のロボットには付け替え可能なアームが1本。シャベルでもドリルでもアンカーでもクレーンでも好きな部品がつけられたからだ。
北畠が背広から話を受けて、たったの1年半しかたっていなかった。
まず重力下で実用でき、かつ販売できる形。それが条件だったからだ。
北畠は今までの予算とは4桁も違う研究費と部下、設備を与えられ、それまで大量にため込んでいたアイディアの全てを惜しみなく投入した。
開発は1年。ライン製作に半年。まさに異例の早さだった。
水着のコンパニオンがマイク片手に笑顔でトーク。
「それではただいまからデモンストレーションを開始します。2機のTA280にはあらかじめ設計図と、地図のデータしか与えておりません。‥‥では!」
湾岸に特設されたTA280の展示場。建てられたばかりの白いガラス張りの建物の中には、様々なオプションをつけられたTA280が鎮座している。
その建物の裏、未舗装の広い地面のひろがる、雑草が海風でそよそよなびく、近代的な建物とは対照的な風景の中、特設ステージ上でコンパニオンが楽しげにシナリオを進めていく。
トラックが1台やってきた。
サイドオープンすると中には手足を最小限まで縮めたTA280が2機。
でこぼこの地面の一角に、黄色と黒色がねじりあっているビニールロープが四角く区切られていて、その横に資材が積んであった。
TA280が2機トラックから自動で降りる。
観客マスコミから「おおっ」という声があがる。
2機のTA280は、ずしずしと歩いていく、そのとき仮装道路として張られた2本のロープの真ん中を歩いていった。
しばらくその場でカメラだけを動かしていたTA280はすぐ横の資材置き場までいく。
2機は相談したわけでもないのに連携して作業を始めた。
TAが何かの動作をするたびに盛り上がる観客達。
得意げにいろいろ小難しい事を並べ立てるコンパニオン。
クレーンアームを持つTA280と、ハンドアームを持ったTA280。
クレーンからワイヤーをおろすと、ハンドアームで重い資材に器用に巻き付ける。
クレーンを動かし、建設予定のロープの上に資材を動かすと、先回りしていたハンドアームが、自力で運んでいたコンクリートの四角い土台を設置し、その上に垂直に資材を立てる。
物の30分ほどでそこにプレハブが1軒建った。
歓声があがる。
歓声を尻目に当たり前のようにトラックの前に行き、お互いの機械同士がトラックから伸びるホースでお互いの機械を水洗いし、トラックに戻り充電を開始する。
全てを自動でこなしたのだ。
労働者達は複雑な顔をするだろうが、資本者達が狂喜乱舞して喜んだ瞬間だった。
もちろんそんな細かいことを考えずに、ただ新しい人間のパートナーを心から欲しかった一人の博士が、2機のTA280のデモを見て、屈託のない笑顔を浮かべていた。
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