第3話

「はぁはぁ‥‥はぁはぁ」


 荒い息。脇腹を押さえて三浦が廊下をずりずりと歩く。


 白衣にはべったりと血がついていた。


 手にはアタッシュケース。


「これで‥‥向こうの国で‥‥研究が‥‥続け‥‥」


 非常階段をはぁはぁと降りてゆく。


 裏口には黒い車。


 三浦が車から降りてくるサングラスに黒スーツの男たちに安堵に息を吐く。男たちは三浦から銃とアタッシュケースを預かった。


「さあそっちの国へ‥‥」


 脂汗を浮かべる三浦を無視して、黒スーツは銃にサイレンサーをつけた。


「‥‥? 何をやっている? ‥‥まっ! おまえ‥‥」


 ばすんばすんばすん。


 間抜けな音が3回。


 黒スーツは冷静にサイレンサーをはずして三浦の手に銃を握らせる。


 黒い車が当たり前のように走り去る。


 ぎらぎらと銀色に輝くビルの谷間。


 雨が降る。


 唐突に土砂降りの雨だ。


 赤色が広がっていく。


 三浦はごろっと仰向けになる。


 開いた瞳孔で黒い雲に隠れそうになる、昼の月に手を伸ばそうとしていた。


 ビルの横につけられた発行ダイオードの掲示板。


『本日、中国企業による初の月旅行。中国月面基地に3日間逗留‥‥』

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る