第17話
「いやぁまったくすばらしいよ」
北畠の研究室にやってきた社長はそう言った。
にこにこと擬音が聞こえそうなほどだ。
「ありがとうございます」
「TA800売れてるよ! 特に中国への輸出量が凄くてねぇ! ‥‥ところで、何か頼みがあるって?」
「はい‥‥しかしこんなへんぴなところまで社長が足を運んでくださるとは‥‥ぼく‥‥私の方からお伺いしなければならないのに」
「いい。いい。TA999の追い込みなのだろう? そんなときに東京まで呼べるものか」
「はぁ」
まいったな、といった顔だ。
社長がそれに気がつく。
「‥‥? なにか、言いづらそうだな。かまわんよ。言ってみたまえ」
「はあ‥‥」
意を決して。
「半年‥‥半年でかまいません。休暇をいただけませんか?」
「ふむ?」
予想外。そういった顔で社長が北畠を見る。
「半年とは長いな。なにかあったのかね?」
「いえ‥‥そういうわけでは‥‥」
「まぁどのみちサンライズの完成にはまだ2年ある。TA999も最終調整さえ終われば完成という報告も受けている。完成したあとでだったら支障はないだろうが‥‥」
どうしたものかと思案する。
「それで‥‥あの‥‥もうひとつ頼みが」
「もう一つ?」
これも予想外といった顔だ。
いままでこの北畠という男が社長に直々に頼み事なんていうことがなかったからだ。
「とりあえず聞こう」
「TA999を連れて行かせてください」
「ぶ?!」
さすがに飲んでいた紅茶を吹き出しそうになった。咳き込んだ後怒鳴る。
「何を馬鹿な事を?! 社外秘中の社外秘だぞ! しかもあんなもの持ち出してどうするきだ!」
「TA999と旅をしたいんです‥‥!」
社長は目を丸くした。
北畠は本気だ。それだけはわかった。
「‥‥無茶をいう‥‥」
「必要‥‥な事だと思っています」
「ロボットと旅することがか?」
「いえ、TA999に旅をさせることがです」
「‥‥」
無言で立ち上がる社長。
北畠はうなだれる。
「明日‥‥連絡する」
それだけで立ち去っていった。
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