第18話

 それは夏の暑い日だった。


 子供達の声がたくさん聞こえる。


 ついで、がしょんがしょんという6脚の音も。


 普段車が通るかも怪しい寂れた道だった。


 途中で遠足している園児達と道を共にしていた。


 蝉の鳴き声と子供の笑い声はうるさくはあれ、不快ではなかった。


 田舎の山に辛うじて生き残っていた古びた水素スタンドで水素を補充するTA999。


 フライパンのように熱されたTA999の上で目玉焼きになりかけの北畠の目の前に、汗のかいた冷たい缶ジュースが現れる。


 TA999が巨大な2本の作業アームを器用に動かし、自動販売機から買って北畠に渡したのだ。


 さらにTA999はジュースを買い続け、黄色い幼稚園の帽子をかぶった子供達に無言で渡していく。


 子供達の声がいっそう甲高くなる。


「夏‥‥だなぁ」


 麦わら帽子を深くかぶり直す。顔で唯一見える口はにやけたようにゆがんでいた。

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