第16話

「あ、三浦博士。こんにちは」


 通路の正面から、控えめではあるが私服の三井麗香が歩いてくる。


「‥‥? 今日は休日だろう? どうしたのかね?」


「あの‥‥えーと」


 ばつの悪そうに、でもどこか恥ずかしそうに手にしていた荷物を背中に隠す。


「?」


「あの‥‥ちょっと敏か‥‥いえ、北畠博士に用が‥‥」


 ごにょごにょとつぶやく麗香。


「ふん‥‥ほどほどにしておきたまえ」


「‥‥はい」


 三浦はそのまま自分の研究室に進んでいった。


 心なしか先ほどより歩き方が荒く見えた。


 三井が北畠の研究室前にいくと、呆けた様子で北畠が立っていた。なぜかお茶の缶を二つ持って。


 そこで三井に気がついた北畠が缶を掲げて言った。


「お茶、冷たいのとあったかいのどっちがいい?」


「ん‥‥あったかいの」




「くそ! くそっ! くそっ!!」


 北畠のPCに流し込んだウィルスによって、三浦の手元にはリアルタイムでTAの稼働状況が送られてくる。


 その1つ1つに無駄がなく、いや、これ以上はないという効率さえ超え、信じられないスピードで稼働するTA達。


 軌道エレベーターの製造スピードは当初の予定よりなんと12%も速まり、マスコミだけでなく全世界の話題になっていた。


 それなのに‥‥


「あいつは阿呆か!」


 北畠の顔を思いながら湯飲みをぶん投げる。


「くそっ! なんだってあんな若造にワタシがこんな腹を立てなくてはならないんだ!」


 がしがしと机を蹴る。


 唐突にモニターのデータ転送が止まる。


「ちっ‥‥ウィルスが駆除されたか‥‥まぁ何も言ってこないだろうがな‥‥」


 いらただしげにたちあがる三浦。


 没になった三浦の企画。


 部屋の隅に捨てられていた1枚の紙。


 軌道エレベーター常駐員とかかれた紙。


 三浦の写真とプロフィールが書いてあった。


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