第15話

「おい。北畠」


 研究室に入って来るなり、呼び捨てたのは三浦だった。


「あ、三浦さん。お久しぶりです」


 宇宙から送られてくる大量のデータとにらめっこしていた北畠はあわてて立ち上がり、何を飲みますか? と訪ねた。


「いらん。それよりもそのデータを見せろ」


 三浦はPCを指さす。


「データ? ああ。軌道エレベータの設計データですか。でもそれなら7研に全部あるんじゃ‥‥」


「違う。そのTAの作業効率データもろもろだ」


「え?」


 何に使うのだろう?


 かろうじて口にはしなかった。


 北畠はしばし考える。当然TAのデータは全て部外秘である。特にTAの作業データはこの3研からの持ち出しも禁じられている。


「すみません‥‥これは‥‥」


「無理を承知で頼んでいる」


 とても頼んでいる態度ではないが、普段から傍若無人の三浦からすれば、本当に頼んでいるのかもしれなかった。


「もうしわけ‥‥ありません」


 困りつつも頭を下げて断る。三浦は普段の態度からあまり好かれてはいないが天才肌で素晴らしい技術者であることを北畠は知っていた。だから内心では彼が望むのならデータを渡してあげたかった。


「そうか‥‥わかった。すまなかった」


「ほんとすみませんです。‥‥ところでなんでTAのデータなんて?」


「‥‥いや、ちょっとロボットにも興味を覚えただけだ」


 つまらなそうに答える三浦。


 だが北畠は笑顔を浮かべる。


「ああ。なるほど。今度のTA600番台の制作の時は7研にも研究をお願いするようにしますね」


「ん‥‥ああ‥‥」


 北畠は立ち上がると流しに歩いていった。


「コーヒーでいいですか?」


「日本茶はあるかね?」


「えーと。ああ! ちょっと待っててください! 缶の買ってきます」


 ふらふらと危なげな駆け足で外に飛び出す北畠。


 三浦はそれを目で追う。


 完全に姿が消えた後、ポケットからメモリーカードを取り出した。


 三浦の額には汗が浮いていた。


 遠ざかっていく足音が三浦を決心させた。


 メモリーカードをPCに差し込む。


 モニターにバーが現れ、その横に0%と現れ、バーと数値が伸びてゆく。


 100%になった時点でメモリーカードを取り出し。つかつかと歩き出す三浦。


 あついお茶と冷たいお茶。1つずつを手に持って、あわてて戻ってくる北畠、だが入り口についたとき反対の通路の奥に、かつかつと去っていく三浦の背中を見送ることしかできなかった。


「‥‥ロボットの話したかったなぁ‥‥」


 なんとなく残念そうにつぶやいた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る