最終話
その巨大な建築物の中にはありとあらゆる形のロボットが暮らしていた。
TA999に話しかけていた声も、TA999の回路を修理してくれたのもすべてロボットだった」
「どうだい? 立派だろう!」
『ああ。凄いよ‥‥でも外が見たい』
「‥‥展望室に行こうか」
ガラス張りの部屋。そこには空があった。
『地球じゃない‥‥?』
荒廃した風景はまるで月のようだった。
『データにない植物ばかりだ‥‥』
赤紫の空に、黒い雲。クレーターだらけの砂漠のような地表の所々に奇妙な植物が生えていた。
「戦争だったんだ‥‥次から次にTAシリーズが作られていったよ。戦争の道具として‥‥」
「凄い勢いで進化していったんだ。その中から人工知能も生まれてきた」
「人工知能を持ったTA達はわずかに生き残った人間達を救おうと努力したよ‥‥でも」
「ロボットの反乱だって‥‥あはは‥‥確かに人間の命令を聞かなかったんだもん当たり前だよね‥‥それで最後に‥‥」
沈黙。
『どうして僕の事を?』
「僕たちTAシリーズを作ってくれた博士の研究データが見つかったんだ。そのなかにTA999の設計図があって、分析してみたら人工知能の可能性があったんだ。だから月で探して地球に持ってきて直したんだ」
『僕は‥‥』
間。
『僕はもし喋れるなら、博士に言いたいことがあったんだ‥‥』
「‥‥」
『人間は‥‥全部いなくなっちゃったのかな?』
「‥‥」
モニターに次々に映し出される地球の荒廃した風景。
全壊したシェルター。
放射能で埋め尽くされた地球‥‥。
『僕はいくね』
「うん‥‥でも‥‥」
『僕は諦められないんだ。どうしても伝えたいんだ』
「そう‥‥いつでも戻ってきてね」
『うん‥‥いってきます』
幾多のロボット達がその作業を一時中断して、TA999を送り出す。
『‥‥ありがとう』
ロボット達の住むシェルターから、赤い土の上に伸びるTA999の足跡。
TA999は生存確率0%の大地をただひたすらに歩き始めた。
どんどんカメラは上空にあがり、腐った海と空と大地を写し、赤く錆びた地球を写し、急速に太陽系、銀河系へと移っていく。
銀河が銀河団になり、銀河団がさらにおおきな塊となっていく。
この広大な宇宙の小さな小さな物語。
たった一人のロボットの物語は、ここで幕を閉じていく……。
——END——
ソラのクモ 佐々木さざめき @sasaki-sazameki
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