第8話
「ここか……」
疲れた声で呟きながら、放風は屋敷を仰ぎ見た。質素だが品の良い門構えから、この屋敷の主の人となりが窺える。奏響は門前で箒を動かし掃除をしている奴僕に目を止めるとツカツカと近寄り、拱手して言った。
「失礼。私はとある霊山より参りました道士、道号を澄音道人と申す者。修行の旅の途中この県に立ち寄りました。この地を訪れたのも何かの縁。県令殿にご挨拶を致したく立ち寄った次第。県令殿は御在宅でしょうか」
居住まいを正して道士らしく立振る舞うその姿に奴僕は圧倒されたのか。慌てて屋敷の中に駆け込むと、すぐさま飛び出してきた。
「おっ、お待たせしました! 旦那様がお会いになるそうです。どうぞ、中へお入りください!」
その言葉に奏響はゆったりと歩を進め、堂々と屋敷の中へ入って行った。放風もそれに続き、屋敷の内へと足を踏み入れる。二人は奴僕に案内されて奥の部屋へと通された。そこにはこの屋敷の主――この地の県令が拱手して二人を待っていた。
奏響達は彼と簡単に挨拶と自己紹介を済ませ、すぐさま本題に取り掛かった。
「聞くところに寄れば、県令殿は近頃不思議な老人の導きによって新しい妾を迎えられたとか。人々の幸福を願い修行する身としましては、人の縁を結ぶその老人の話には一方ならず興味を持っております。御迷惑でなければ、是非ともそのお話を聞かせて頂きたい」
別に人々の幸福を願って修行しているわけではないくせに、よくもまぁここまで滔々と心にもない事を言えるものだ。呆れた目で放風が見詰める前で、奏響は次から次へと言葉を並べたてていく。
すると、どうやらそれにのせられたらしい県令はまんざらでもなさそうな顔で言う。
「ほう。彼女を迎え入れた話は既にそんなに広まっているのですか。そして道士様が興味をお示しとは……。その話で良ければ、喜んでお話いたしましょう。……そうだ。当人もいた方がわかりやすいでしょう。今、その新しく妾に迎え入れた娘を連れて参ります。しばしお待ちくださいませ」
そう言って、県令は席を立ち屋敷のいずこかへと歩いて行った。その後ろ姿を見送りながら、放風はひそひそと奏響に言った。
「怖いほど順調に事が進んだな。これが道士の威力というものか」
「道士というよりは、話術の威力だね。同じ結果を求めるにしても、上手く言葉を選んだ方が事が早く進むんだ。口下手な道士と言葉巧みな一般人なら、後者の方が早く結果に辿り着けるだろうね」
つまり、言葉巧みな道士が最強であるとも言えなくない。そう考えた時、放風はふと首を傾げて奏響に問うた。
「舌先三寸で人を動かすわ微妙に二面性があるわ……お前は本当に道士らしくないな。道士らしくないと言えば……お前はどうして護龍隊に入っているんだ、奏響?」
「? どういう意味?」
意味がわからず、奏響は放風に問い返した。そこで、放風は再び口を開く。
「道士というのは、俗世から離れる事で人を凌駕する力を身に付け、時に仙人や神を目指す者だと俺は思っていた。そんな奴が、何故皇帝である文叔の私設部隊に所属し、文叔の為に働いているのか……それがわからん」
そう言って放風が肩をすくめると、奏響は事も無げに言う。
「皇帝だからこそ、だよ。皇帝というのは今から二百年以上前に秦の始皇帝が作った造語だ。それより前は天下の統治者の事を天子と呼んでいた。天子とは即ち、天――天帝の代理で天下を治める者の事。そして僕ら道士は、天帝の意向に従う事で自然と一体化し、人を超越した力を得ようとする者だ。天帝の
「文叔を援ける事が、ひいては天帝の意向に沿う事になるから……か」
「そういう事。そういう点で、護龍隊というのは僕らにとって都合の良い組織だよ。ただ文叔の命令で調査や戦闘の援軍に行くだけで、内外政に干渉する力は一切無い。下手に道士に官位を与えたりすると、インチキ呪い師なんかが宮廷内を跋扈し始めて自分の思う通りに皇帝やその他役人を操りだすからね」
「道士に官位を与えたという前例を作る事無く道士の力を皇帝――文叔に貸す事ができる、道士にとっても文叔にとっても都合の良い組織、というわけか」
放風の言葉に、奏響は頷いた。
「もっとも、文叔はそんな事まで考えて護龍隊を作ったわけじゃないみたいだけどね。そもそも、創設当初は道士が仲間に加わるなんて想像もしなかったんだろうし」
「お前と考福が加わったのは想定外だったという事か」
「そう。そして、本物の道士が二人も援けになろうとするという事は、天がそれだけ文叔に期待しているという事さ」
その答に放風は「なるほど」と言うように頷いた。そして、ふと何かに気付いたのか、表情を硬くして奏響に問う。
「……という事は、もし天が文叔は皇帝に相応しくないと判断した時には、お前と考福は……」
「当然、護龍隊を抜けて文叔の元から立ち去るよ。僕達は文叔の部下じゃない。あくまでも天帝の僕なんだからね」
その言葉に、放風は不安そうな顔をする。すると、奏響は苦笑しながら言った。
「大丈夫。今のところ、天は文叔の働きに満足しているよ。僕達も、当分の間は護龍隊から抜けずに済みそうだ」
そう言って放風を安心させたところで、県令が一人の女性を伴って戻って来た。女性はどちらかと言えば不美人の部類に入る上に、立振る舞いも上品とは言い難い。だが、何やらほんわかとした安心できる雰囲気を纏っている。恐らく彼女が、件の不思議な老人によって姿を消した最初の女性なのだろう。
「お待たせ致しました。こちらが近頃迎え入れた妾……逃集村出身の呂玲にございます」
県令に紹介され、呂玲という名であるらしい女性は二人に向かって会釈をした。県令が〝逃集村〟という言葉を口にした時彼女の顔が少しだけ曇ったのは見間違いではないだろうと、放風は思う。
「では、早速ですが貴方がたが出会う切っ掛けとなった老人の話を聞かせて頂きましょうか?」
奏響が話を促し、県令は呂玲に先に話すようにと言った。そこで、呂玲が恐る恐る口を開き言葉を紡ぐ。声は見た目に反して割と良い。
「あれは……月の美しい晩でした。水がめの水が無くなっている事に気付いて、村の中央にある井戸まで汲みに行ったんです。すると、一本の木の根元におじいさんが一人座っていました。見た事のない人でしたが、おじいさんがあんな夜中に座り込んでいるのですから放ってはおけませんでした。気分でも悪いのではないかと近寄って声をかけてみましたところ、おじいさんは私に言ったんです。「良縁が待っていて、貴人の妻になれる」と……」
そう言って呂玲は県令をちらりと見た。その頬は赤く染まっている。奏響と放風の視線に気付いた呂玲は顔を更に赤くしながら視線を元に戻し、話の続きを始めた。
「それで、おじいさんは私の手首に赤い糸を巻きつけました。その糸が指し示す場所へ今すぐ行けば、運命の人に出会えると言って……」
ここまでは報告の竹簡と内容が一致している。奏響と放風は顔を見合わせて頷き、呂玲に話の続きを促した。
「最初は躊躇ったんです。けど、もしこの話が本当なら、おじいさんの言葉に従えば貴人の妻になれるんです。そうすれば、今の貧しい生活から抜け出す事ができる。そう思ったら、従わずにはいられませんでした。それで、糸が指し示すままに歩き続けました。すると、村の外に旦那様がいらっしゃったのです。旦那様は私の事を見染めて下さり、妾として私をこの屋敷に迎え入れて下さいました」
そう言って呂玲は、幸せそうに微笑んだ。それにつられるように県令も微笑み、奏響達に向き直ると言う。
「では、次は私の番ですね。あれはもうどれほど前になりますか……仕事で、ある県まで遠出をしたのです。遠出と言っても、それほど遠いわけではありません。それまでにも幾月と間を置かず出向いていた県です。その帰り道、私は逃集村へと足を向けました」
「何故また?」
奏響が問うと、県令は呂玲の手前言い辛そうな顔をして言った。
「性質の悪い好奇心からです。先祖代々の土地を捨てて逃げるような者達が集う村……それがどんな村なのか、見てみたいと思ったのです。先祖を捨てた彼らがどんな顔をして、どんな暮らしをしているのか見てやろうと……」
そこまで言って、県令は言葉を切った。そして息を吸い、吐く。申し訳なさそうな顔をして呂玲を見詰めながら、彼はまた話をし始めた。
「着いた瞬間、「ああ、やっぱりな」と思いました。人々の顔は暗く、活気も生気も無い。予想通りのその様に落胆した私は、すぐに帰ろうとしました。ですが……」
そこで、県令は口籠った。何やら照れ臭そうにもごもごと話しているが、何を言っているのか聞き取り辛い。それが奏響と放風の顔に出たのだろう。県令はグッと下っ腹に力を込めると、覚悟を決めたような顔で言った。
「その帰ろうとした時、子どもの声が聞こえてきたんです。暗い村の雰囲気には似合わない、明るい子どもの声が。興味をそそられてそちらを見ると、そこには数人の子ども達と、その子らと笑顔で語る呂玲がいました」
ここでやっと、「この話は特に必要無い上に長くなるな」と勘付いた奏響と放風は県令が自らの語りに夢中になり出したのを幸いに椅子に座って茶菓を齧り出した。それに気付いた呂玲が、慌てて茶を注ぎ足しに近寄ってくる。それでも県令は二人の態度に気付かず、ただひたすらに自分がいかに呂玲に惹かれていったかを語り続けた。先ほど口籠っていたのが信じられないほどの鬱陶しさだ。恐らく、本当は誰かに話したくて話したくてウズウズしていたのだろう。しかし、県令の威厳というものもあるので話せずにいたところ、奏響達が現れた。つまり二人は、県令の良いカモであったのだ。
話はそのままダラダラと続き、いい加減間を持たせる為に齧る茶菓も無くなった頃に、県令は一息ついて茶を飲んだ。そして、感慨深げに言う。
「……そんな時です。不思議な老人が私の前に現れたのは」
全く話を聞いていなかったのでどんな時だったのかは不明だが、不思議な老人、という言葉に奏響と放風はガバッと県令に顔を向けた。県令は話を無視され続けていた事など全く知らぬ様子で、更に話し続ける。
「老人は私に言いました。彼女をごく自然に迎える事ができると。それはつまり、先ほどの呂玲の話の通り、老人が私達に赤い糸を結びつけてくれるという……」
「別に赤い糸を使わずとも、村へ行って真正面から告白すれば結ばれたような気もするが……」
「シッ! ここは最後まで喋らせておくんだ」
ひそひそと私語を交える奏響と放風の前で、県令は尚も語る。
「そこで私が承諾すると、老人は彼のお弟子と思われる数人の男性を連れてきました。立派な体格をした男達で、非常に頼もしく見えたものです」
そう言う県令の目はうっとりとしている。随分と毒されてくれたものだ。
「そしてお弟子の方々は、私と呂玲が直接話をする事ができる場所まで連れて行ってくれると仰いました。老人の神通力のお陰で、その場所へ行けば何もせずとも呂玲が私の元へ来てくれる、と……」
「そして、弟子の男達に「あっちへ行く」「気の流れが変わったから少し移動する」などと言われて村の周りをうろついているうちに、呂玲殿が目の前に現れた、と?」
痺れを切らしたように、奏響が言った。その言葉に、県令の目が丸く見開かれる。
「……そう! その通りです! 何があったかわかるのですか!? 流石は道士様!」
どうやらこの県令は、このまま不思議な老人だけではなく奏響の信者にもなってしまいそうだ。この県の未来に軽く不安を覚えながら、放風は成り行きを見守った。
「更に言うと、県令殿も呂玲殿と同じように手首に赤い糸を巻き付けられた。だが、県令殿の糸は呂玲殿のそれとは違って運命の人である筈の呂玲殿を指し示す事はなく、風に糸が煽られているかのように宙を舞っていた……違いますか?」
「そう! そうなんですよ! 確かに少しおかしいとは思いました。ですが、よくよく考えれば女は生涯に一人の夫しか持つ事ができませんから、糸はまっすぐに一人の相手を指し示します。ですが、男は何人も妻や妾を持つ事ができる……つまり、運命の人がたくさんいますからね。糸が呂玲以外を指し示すのも仕方がないかと……」
そこまで聞くと、奏響は県令に気付かれぬように溜息をつき、立ち上がった。そして、作った笑顔で挨拶をする。
「……なるほど、よくわかりました。貴重なお時間を頂いた上にこのような興味深いお話を聞かせて頂き、恐悦至極です。貴方がたに、天帝のお恵みが降り注がん事を」
それだけ言うと、奏響はさっさと屋敷を出ていってしまった。一瞬出遅れた放風が慌ててその後を追う。
「……何と言うか……本当に良吏なのか、あの県令は?」
怪訝な顔をして放風が呟いた。すると、奏響は欠伸をしながら言う。
「良吏は良吏だよ。彼の治める地が比較的穏やかで平穏なのがその証拠だ。ただ、ちょっと女性にだらしがないところがあるのが玉に瑕みたいだけどね」
「俺にはとても女にだらしがないだけには見えなかったが……」
尚も怪訝な顔をして放風が言う。すると、奏響は苦笑した。
「一人の男性が多くの女性を囲うのはごく普通の事だからね。未だに恋人の一人もいない放風や忠龍にはわからない事かもしれないけど、多くの女性を囲う事は男性にとって一種のステータスなんだよ」
「……それくらい、俺だってわかっている」
ぶすっとした顔で放風が言う。すると、奏響は「僻まない僻まない」と言って放風を宥めた。そして、更に言う。
「まぁ、何と言うか……あの二人なら大丈夫。何だかんだで幸せになれるよ。呂玲さんはボーっとしているところがあって悋気とかには無縁のようだし、正妻や他の妾達から何らかの嫌がらせを受けたとしても本人がそれに気付かぬうちに受け流してしまいそうだしね。それに、県令殿は見ての通りの天然ボケだ」
「ある意味お似合い、という事か……」
「そう。だから、あの二人に関しては本当に何にも心配はいらない。それよりも、件の老人の事だ」
歩きながら、奏響は話を切り替えた。それに伴い、放風の表情も引き締まる。
「そうだ。奏響、お前は何故わかったんだ? 呂玲殿と出会う前に県令殿があちらこちらをうろついた事や、糸が呂玲殿を指し示していなかった事……」
「少しくらい自分の頭で考えなよ」
冷たく言われ、放風はグッと言葉を詰まらせた。そして、必死で考え始めたその時だ。
「けど、放風が自分でわかるまで考えるのを待っていると時間の無駄だから言ってしまうとね」
さらりと言われ、放風は肩で脱力する。考えるのが時間の無駄と正面切って言われたのが非常に悔しい様子だ。
「要はね、風に従っていただけなんだよ」
「風?」
放風が言うと、奏響はこくりと頷いた。
「件の老人は不思議な老人でも何でもない。ただ少しだけ口が達者なだけの、普通の人間だよ」
「口が達者なだけ? それだけでそんなに上手く人の縁を取り持てるものなのか?」
素っ頓狂な声で、放風が問うた。すると、奏響は肩をすくめて言う。
「言っただろ? 口下手な道士と言葉巧みな一般人なら、後者の方が早く結果に辿り着ける、って。老人は適度に風のある日を選んで、言葉巧みに呂玲殿が糸に従って歩いてみる気になるよう仕向け、糸をその手首に巻き付けた。彼が実行したのは、それだけだよ」
「適度に風のある日を……?」
「風が強過ぎると糸は滅茶苦茶に宙を舞い、従って歩くどころじゃなくなるだろ? かと言って、まったく風がなければ糸は動かない。だから糸が真っ直ぐに何処かを指し示す程度の風がある日を選ぶ必要があったんだ。あとは簡単だよ。呂玲殿は風に舞う糸に従って、県令殿の元へ歩いてくる」
そう聞かされ、放風は納得した様子で頷いた。
「なるほどな。風は一方向に吹いていた。だから呂玲殿の糸は県令殿を指していたが、県令殿の糸は呂玲殿を指し示していなかった、というわけか。だが、県令殿がうろついたという話は……?」
「これも簡単。逃集村に出入り口は一つしか無かったからね。風向きに従って、出入り口より風下で待っていれば呂玲殿は自然と県令殿の元へ辿り着ける筈なんだ。ただ、術ではなく自然が起こした風は微妙に風向きが変わってくるからね。その老人の弟子とかいう男達は苦労したと思うよ。風向きが少しでも変わる度に県令殿の立ち位置を絶妙な場所に変えないと、呂玲殿と県令殿を会わせる事ができないんだからさ」
「そういう事か……」
感心して、放風はまたも頷いた。そんな彼に、奏響は蛇足とでも言わんばかりに言う。
「最初に県令殿と呂玲殿の仲を本当に取り持って見せたのは、カムフラージュだよ。老人のお陰で運命の人と出会い玉の輿に乗った人が本当にいる。最初の娘は不美人であったから、美人ばかりが声をかけられているわけではない。この二点があるだけで、老人とその弟子と名乗る一味は随分と仕事がし易くなった筈だ。前例があるし、美人ばかりならともかく不美人にも声をかけるような人攫いは考え難い。二番目以降にいなくなった女性達の警戒心はかなり薄れていた筈だよ」
「全ては計算と話術のなせる技、というわけか……」
放風は感心したような、呆れ果てたような顔だ。それに頷いて見せ、奏響は放風に言った。
「ところで、その話は一旦置いておいてさ。放風、視線を感じないかい?」
「視線?」
言われて、放風は辺りの気配を窺った。確かに、何処からか視線を感じる気がする。放風は背負った弓に手をかけながら、呟いた。
「怪老人の仲間、か……?」
「その可能性もあるかもね……」
言いながら、奏響は辺りを見渡した。日が暮れかけているからか、元々人通りの少ない道だったのか……辺りに人の姿は全く無い。
「今なら、街中で矢を射ても役人に目を付けられる恐れは無さそうだね」
「そうか」
奏響の言葉に頷き、放風は弓を背から取り外し、矢を番えた。視線を感じた先へと矢先を向け、ギリギリと弦を引絞っていく。
「放風。わかってはいると思うけど、射殺しちゃ駄目だよ。脅す程度にしておくんだ。脅して、恐怖を植え付けたうえで捕まえて、何で僕らを見張っていたのか訊き出さないとね」
奏響は笑顔で怖い事を言っている。それに早くも恐怖を感じたのか、視線の主は敵前逃亡を決断したらしい。足音と共に、衣が翻る様が壁の蔭に見えた。
それを見逃さず、放風が番えた矢をヒョウと解き放つ。矢は見事に衣を貫き、視線の主を近くの壁へと縫い付けた。
「相変わらず、射術だけは良い働きをするよね」
「だけ、と言うな! だけと!」
ヒュウ、と口笛を吹き鳴らしながら、奏響は腰に手を遣った。そこには、銀色に光る笛を帯びている。笛を抜き取り、手で弄びながら奏響は視線の主に近寄った。文句を言いながらも、放風もそれに倣う。勿論、弓に第二の矢を番える事は忘れていない。
その姿に更なる恐怖を覚えたのだろう。声の主はついに慌てた叫び声を発した。
「二人とも、待った、待った! 私! 私だよ!」
必死で叫ぶその声に、奏響と放風は二人揃って唖然とした。急いで近付いてみれば、衣を貫かれたその人物は二人がよく知る人物だ。
「文叔……お前、何故ここに……!?」
唖然としたまま、放風が呟いた。そう。そこにいたのは文叔――後漢初代皇帝、劉秀その人だったのだ。
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