第8話 一時帰還
虚脱状態から抜け出した俺はドロップ品を確認する。
ビックスライムのドロップ品は、少し大きめの魔石と野球ボールくらいのスライムボールだった。スライムボールも大分溜まったな。何に使えるのか。取りあえずリュックにしまう。
「さっきの攻撃はよかったわよ。ああいう風に魔力を使えば楽にモンスターを倒すことが出来るわ。魔力操作が上手くなれば魔力を武器に纏って攻撃力の向上を図ったり、体に纏えば身体能力や防御力が上昇するのよ」
師匠が説明してくれる。段々と優しくなって来たみたいだ。デレてきたか。
「またバカなことを考えているようだけれど第二エリアを攻略出来たから取り合ず拠点に戻りましょう」
どうやら顔に出ていたようだ。また呆れられてしまった。
「戻るのはいいけど、来た道をまた行くのか。第一エリアのボスはまた復活してたりするのか」
せっかくボスを倒したのに、戻ったらまたボスを倒さなきゃならないのは勘弁してほしい。
「歩いて戻るとまたボスを倒すことになるわね。ただ、第二エリア以降はエリアボスの部屋から出口に戻れる転送陣があるの。それを使いましょう」
そういうと師匠は第三エリアに行く階段のほうに歩いていく。
「これが転移陣よ」
何やら直径1メートルほどの丸く縁どられ、その縁に模様なのか文字なのか判別のつかない装飾が施された地面の前を師匠が指し示した。
「この上に立って念じれば、出口に戻れるわ。さあ早く乗りなさい」
俺は急いで転移陣の上に乗る。
「行くわよ。出口へ転移」
師匠がそういうと一瞬にして景色が変わり、ダンジョンの出口に立っていた。すごい出口のところにいるぞ。
俺は急いで外に出ると、太陽はもう真上にきていた。昼を過ぎているようだ。
「この転移陣は一度行ったことのあるエリアに自由に行くことができるわ。次回はこれを使って第三エリアに行くことにしましょう」
「第二エリアのボスはどうなるんだ。転移陣はボス部屋にあるだろう。ボスと鉢合わせとかにならないか」
「転移陣を使用した場合はなぜかボスは出てこないわ。それに行きたいエリアで誰かがボスと戦闘している場合は終わるまで転移陣を使うことが出来ないの」
ダンジョンはかなり融通が利く代物みたいだ。
「そっか。じゃあまた飯を食べたらダンジョンに潜ればいいかな」
俺はこの後の予定を確認する。
「この後は昼食を食べたら、魔法の練習と弓の練習をしなさい。第二エリアまでしか潜ってないけれど、遠距離攻撃の必要性を感じたでしょう」
師匠に言われて俺は頷く。確かにモンスターがグループで来た場合に遠距離攻撃が出来たらもっと楽に倒せたはずだしな。
「そうだな。遠距離攻撃は必要だよな。弓の方は練習すればいいけど、魔法は魔力感知と魔力操作の練習でいいのか」
「魔力感知と魔力操作がある程度できて来たら、イメージを魔力で具現化するようにしなさい。例えば攻撃に良く使用されるのは火の魔法だけれど、手で握れるくらいの火球をイメージしてそのイメージを魔力で描くような感じで具現化すればいいわ」
師匠がそう言うと目の間に野球ボールくらいの火の玉が現れた。すごいな。俺も使えるように練習しないと。
師匠の説明を受け俺は何とか出来るように練習することにする。
取りあえず昼飯を作ろう。手に入れたウサギの肉を焼いて食べてみるか。
俺たちは家に戻ることにした。
昼食を食べ終えた俺はひとり家を出て池のほとりにやってきた。
ウサギの肉はウマかった。一口噛めば溢れる肉汁と野生を感じる風味が口の中を暴れまわった。こりゃ下手な牛肉よりうまいぞ。時間があれば狩りすることにしよう。
俺はニヨニヨしながら弓の練習をすることにした。
10メートルほど離れたところの樹に紙で書いた的を張る。
俺は弓に矢を番え的を狙う。
ヒュールルーと情けない音を鳴らして矢は俺の1メートル先に落ちる……
難しい……俺は矢筒から矢を抜き再度構えて放つ。
ポト……今度はさらに手前で落ちた。チクショウ。
俺はさらに続けて練習を続ける。矢筒にあった20本くらいの矢はすぐそこを尽いてしまった。矢を拾いに行かないとな。
「矢が自動的に戻ってくればいいのにな」
思わず口に出してしまう。すると空になった矢筒が光り、矢が元通りの本数戻ってきた。辺りを見回すと放った矢が見当たらない。
なんとこの矢は自動的に戻る仕様のようだ。
俺は拾い集める必要が無くなったのでガムシャラニ練習した。
しばらく練習すると何本かいい音をしながら的に当たるようになってきた。まだ狙った的の真ん中には当たらないが少しはやり方が分かってきたぞ。
俺はキリがいいところで練習をやめた。明日は弓を使ってモンスターを倒してみよう。
次は魔法の練習をすることにする。亀のイチローがさっきからこっちを見ている。ちょっと恥ずかしいぜ。イチローはあくびをしながら日向ぼっこをしだす。
俺は気を取り直してまずは魔力感知から始める。
精神を集中し体の中の魔力を感じられるように集中する。
最初よりもスムーズに魔力を感じられるようになってきたぞ。次は魔力操作だ。
俺は指先に魔力が集まるように集中する。靄のような魔力が指先から放たれる。
この魔力を細くしたり太くしたり形状を変えられるように意識する……これは難しいな。集中だ集中。試行錯誤しながら何とか煙の状態から紐状にすることが出来た。
今度は□や○になるように魔力操作の練習をする。
最初は歪んだ形をしていたが徐々に思い描いたような形にすることが出来るようになってきた。取り合えずこんなところでいいな、よし魔法を使ってみよう。
まずはさっき師匠が見せてくれた火球の練習をするか。
俺は火球のイメージを練る。うーん、イメージを練るっていうのも難しいものだな。
メラメラと熱い炎の玉をイメージすると、俺は魔力をそのイメージで具現化するように操作する。俺の描いたイメージという図面を元に火球を構築していく。
うーん、どうやったら出現するかな。師匠は何も言わずに火球を出現させたけど、
俺にはまだ無理そうだ。何か掛け声というか、呪文が必要かな。
そう考え有名な火の魔法の名前を唱えることにする。
「焼き尽くせ、ファイヤーボール」
俺が呪文を唱えると、右の手のひらにビー玉サイズの火の玉が現れた……
イメージしたものと全然違うぜ……
イメージはよかったと思うが、魔力を用いて現象を出現させるのがまだ甘かったようだ。
しかし手のひらに火があるのに全然熱くないな。
思わず左手で触ろうとする。
熱い。
左手をすぐひっこめるが少し火傷してしまった。ちゃんとした火だな。おそらく魔力で右の手は保護されているから熱さを感じないのだろう。
俺は何とか作った似非火球を消そうと思い手を振ったり、息を吹きかけたりするがいっこうに消えてくれない。
そっか、魔力を使ってるから魔力を切ればいいんじゃないかな。そう思い魔力を消すように操作すると、無事消えてくれた。
少しわかってきたな。魔力操作が一番重要だ。
俺は改めて魔力を構築していく。
何度も練習した結果無事、野球ボールくらいの火球を作ることに成功した。
これこそファイヤーボールだぜ。
消しては作りを繰り返し、何とかスムーズにファイヤーボールを作り出すことが出来るようになった。
今度はこれを狙った場所に飛ばす必要があるな。目標に飛んでいくイメージをしながら狙いをつけて魔力操作を行う。
ヒョロヒョロと低速で目標にした的に飛んでいく……
うーん、これじゃあモンスターにすぐ避けられてしまう。ある程度のスピードで飛ばすにも技術がいることを知り、先はまだ長そうだなとゲンナリしてしまった……
だが俺はあきらめん。せっかく魔法という神秘の力が使えるようになった嬉しさで俺はさらに練習を続ける。
それから俺は夢中になり何度も練習を繰り返した結果、大分スピードが上がってきた。これならウサギやスライムも避けられることはないだろう。
辺りはすっかり暗くなっていた。俺の練習を見舞ってくれていたイチローもいつの間にかいなくなっていた。
練習の成果に気をよくし、ウキウキしながら家路に着くことする。早く師匠に見せたいな。
(続く)
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