第4話 拠点確保
魔法はすごいな。何十キロと離れた場所に一瞬で行くことが出来た。俺は自分の家を眺めながらそんなことを考えた。周りは朝出て行った景色と変わることなく存在していた。よかった家は無事なようだ。ゾンビの気配はしない。
「うむ、なかなか良さそうなところね。家も趣があっていいわね。畑もあるし、池があるということは、湧き水かなにかもあるのね。家の後ろは山があるから背後からもある程度は安心ね。これなら拠点にできるわ」
師匠はそう俺に言うと肩から飛び降りて歩き出した。慌てて着いていくと急に立ち止まった。
「ところで、耕太は家族はいないの。人の気配がしないけど」
「いやいないよ、俺が学生の頃に事故で死んでしまってそれからは一人だ」
「そう、残念だったわね。まあ家族の心配をしないだけ他に集中できるわね」
師匠はそう言うと周囲を見ながら、
「先ずは、安全をが第一ね。侵入防止の壁でも作りますか。石の壁だと無粋ね、とするとコレね」
師匠がそういうと家や池、田畑を囲む形でタケノコが生えるように樹木が飛び出て、あっという間に木々の壁が出来た。
「出入り口はここでいいわね。そうすると門番も欲しいわね。この樹でいいわね。これでよしっと」
師匠はひとり呟き太い幹に何かを埋め込む。すると樹が動き出した。土に埋まっていた根が足のようになり、左右に生えていた長い枝は腕のように動く。最後に目と口のような穴が開くと樹は恭しく師匠に頭を下げた。
「なかなかいい出来だな。よし其方はこの出入り口を守護しなさい。攻め寄せたゾンビは処分しなさい」
命令を受けた樹はウガーと唸ると入り口の前に陣取る。ゾンビは一切通さない、そんな雰囲気をまとい樹は立っている。
「師匠あれはなんだ」
「あれはウッドゴーレムよ。良さそうな樹だったので門番としたの。性能がいいから与えられた命令は守わ、それに感染者の選別も出来る能力も与えたから感染者が入ってこようとしても侵入することは出来ないわね」
「ウッドゴーレムね。うち桜の木がゴーレムになっちゃったのか、綺麗な桜なんだけどな。入り口は分かったけど、周り樹はどうなんだ。あんな樹でゾンビとか大丈夫なのか、コンクリートとかのほうが頑丈じゃないかな」
俺は疑問に思ったことを聞くと、
「単なる樹ではないわ。あれはドリア―ドの樹といって意思を持った樹よ。侵入しようとした者を襲い、養分として取り込むのよ。ドリア―ドはゴーレムとパスをつないだからゴーレムを頂点とした防御機構になっているわ。ちゃんと攻撃対象をゾンビにしたから人間は襲わないわ」
ファンタジー要素が俺の庭に侵入したようだ。聞くからに鉄壁と思える防御機構だな、安心して眠れそうだ。
「あとは、警備を兼ねて田んぼや畑を耕す用にクレイゴーレムを何体か作れば一先ず拠点になるわね」
そういって地面に宝石のような石を5個置くと、その石を中心に地面の土が集まり50cmほどの大きさの人形が出来上がった。
整列したクレイゴーレムに師匠は先ほど言っていたことを命令した。命令を理解したのかゴーレムたちは畑を耕し始めた。
「さてこれでいいかかしら。あとはゴーレムに任せて家でゆっくりしましょう」
そう言って師匠は家に向かう。俺も早く家に入りたい、急いで追いかける。
家に入ると俺は空気を入れ替えるために窓を開けて回る。ゾンビのことを考えると不用心だと思うが、師匠の話だと奴らは侵入することは出来ないみたいなので取りあえず納得することにする。
窓を開け終え、居間に戻ると師匠がテレビをつけて見ていた。上品に座っている姿を見るとなんだかほっこりする。
そんな気分もテレビに目をやると吹っ飛んでしまう。
「暴徒たちにより人々が襲われています。襲われた人も暴徒になっているようです。原因はまだ不明です。政府からは家から出ないようにとの通告で出ております。視聴者の皆さま安全が確認出来るまで家から出ないでください。また、外出している方は速やかに帰宅してください」
「世界各国で同様のことが起きております。ご覧ください。映像は今朝のアメリカです。ワシントンと中継がつながっております。支局の木原さん……いや、木原さんが食べられている。何よこれ。切って、早く切って」
「あれはゾンビだ、見ればわかるだろ。殺すしかない、そうしないと食われて自分たちもゾンビになってしまう。バカなことだって、あんたは自分の目で見てないのか。内臓をまき散らせながら平気そうに歩く人間はいない。麻薬のせいだと。あんたはバカか」
「総理この事態をどう対処するのですか。自衛隊を鎮圧に向かわせるのは憲法違反ですよ。国民の権利をどのようにお考えなのですか」
どの番組もこの事態に混乱しているようだ。国営放送では国会中継をしており、現状を理解でいない政治家がよくわからないことを言っている。人の命より憲法がどうとかが重要なのか。自衛隊を派遣しない理由がわからない。まあ、自衛隊でももう手遅れな気がするが。
俺はテレビを見るのをやめて食事を作ることにする。時計はすでに14時を回っている。ただ疲れているし簡単なものにしよう。
冷蔵庫の食材を確認し、冷や飯と卵、ネギ、肉を取り出す。簡単にチャーハンを作ろう。師匠も食べるだろうか。まあ食べなければ牛乳とかでいいか。俺は手早くチャーハンを作り二枚の皿に盛りつける。
「師匠、飯作ったけど食べるか。チャーハンという料理なんだけど」
俺はテーブルに料理を乗せると師匠に尋ねる。
「うむ、中々気がきくわね。何度も言うけれど妾は猫ではないから大丈夫よ」
そんなことを言いながチャーハンを食べる仕草は猫そのものだ。
「美味しかったわ。ごちそうさま」
そう言って師匠は立ち上がり外に出る。
「どこ行くんだ師匠。着いていこうか」
「少し辺りを調べるだけよ。疲れたでしょうから少し休んでなさい」
そう言われて俺は横になった。ほんの数時間で色々あったな。ゾンビなんてものに襲われ、喰われかけるし。喋る猫に助けられ、世界の神秘を知る。これから世界はどうなるのだろう。ダンジョンやモンスターというのは大丈夫なのか。俺は魔法が使えるのか。
そういえば会社の皆は無事かな。総務の須川さんは元気かな。まあ総務のアイドルだから誰かしら助けているだろう。友人たちはどうなった。生きているのか。
そんなことを考えていたら瞼が重くなってきた。少し眠ろう。起きたら世界も少しはマシになってるかもしれないな……
(続く)
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