第5話 準備
ゾンビが追いかけてくる。逃げないと喰われる。そう思うが走ろうとしているのに足がゆっくりとしか動かない。早く、早くと思おうが一向に俺の足は速くならない。俺の肩にゾンビの手がかかる。振り切れない、ゾンビが俺の首にかぶりつこうとする。
やめろ、やめろ、やめろー……
「やめろー」
ハー、ハー、ハー、夢か。辺りはすっかり暗くなっている。かなり寝てしまったらしい。変な夢を見てしまった。ゾンビやらしゃべる猫やらストレスでも溜まっているのかね。俺がそんなことを考えていると、
「うなされていたけれど、悪い夢でも見たのかしら」
喋る猫もとい師匠のメアリーが俺を見ていた。夢じゃなかった……
「おかしなことが立て続けに起こったから変な夢を見たんだ。喰われる夢を」
「まあ見ても仕方ないわね」
師匠が俺を気遣ってくれる。意外と優しいところもあるんだな。
「ところで師匠辺りを散歩してたみたいだけど何してたんだ」
俺が寝てた間に何していたか気になり問いかける。
「ここは拠点として使うから訓練用のダンジョンの設置や世界樹を植えていたのよ」
俺の家がどんどんファンタジーに要素に塗り替えられていくようだ。ダンジョンや世界樹なんて最後の幻想や竜のクエストみたいだ。
「訓練用のダンジョンてなんだ。それに世界樹って神樹と違うのか」
「妾が神々から依頼されたときに、地球の人間を鍛える用に自由設置が出来る訓練用ダンジョンをもらったの。世界樹というのは妾の世界にある精霊を生み出す樹よ。こっちに来るときに枝を持ってきたの。精霊が増えればマナが安定するしね。これは妾からのプレゼントよ」
もう真っ暗だから明日にでも見てみるか。
「ところでゾンビどもは大丈夫か」
「この辺にも徘徊するようになったわね。何体かドリア―ドに捕食されてたわ。今の状態だと拠点から外に出歩くのは食べられに行くようなものね」
何ということだ。ゾンビの増殖スピードは大分早いようだ。テレビをつけて見るとそのチャンネルも何も映らない。放送局の人間もやられたか逃げ出したのだろう。
「明日からは何をすればいい。ダンジョンに潜って訓練するのか」
「そうね、ダンジョンでモンスター討伐と薬草採取をすることになるわ。じゃあダンジョンについて説明しましょう。耕太はこれを持ちなさい」
師匠は何かを呟く。一瞬後、俺の目の前に槍、弓、ナイフ、丈夫そうな黒いシャツとズボンが出現した。
すごい、何もない所から出てきた。小説であるような空間収納かな、俺も使えるようになれないかな。ダンジョンでレベルやスキルなんかガンガン上がって、全属性魔法や創造魔法なんか使えて、チート無双でハーレムだ。夢が広がるな。
「これはダンジョンを探索するときの武器と防具よ。槍やナイフはただの鉄製ね。シャツとズボンはアルケニーの糸で編んで、黒竜のうろこを染料にして染め上げたものよ」
「武器は普通なんだな、なんでだ。防具は素材からして凄そうだけどさ」
俺は武器と防具の素材の違いを質問する。
「素人にいきなり高性能な武器を持たせても意味ないわ。武器に振り回されるのがオチよ。防具は命に関わる部分だからある程度高いほうがいいの。このシャツとズボンはゾンビに噛みつかれても傷つくことがないわ。それに武器も防具もダンジョンで使えば使うほど性能が上がってくるから低性能でも問題ないわ」
命を大事にが基本戦術か。確かに武器なんて持ったことがないし、槍ならリーチがあるからある程度安全か。
「他に必要なものはあるか。持って行ったほうがいいものとかさ」
「そうね。素材を入れる背負い袋や明かりもあったほうがいいわね。明かりはなければ魔法で代用できるけど適性がないと使えないしね。背負い袋もダンジョンで使えば性能が上がって容量が増えていくわ」
小説でもある設定だな。昔購入したリュックを含むキャンプ用品があったはずだからそれを持っていくか。確か押し入れに入っていたよな。あとで探しておくか。
「その他詳しいことは明日の探索の時に説明するわ。明日は朝からダンジョンに潜るから早く寝ることね」
師匠に言われて俺は早く寝ることにする。そういえば風呂に入ってないな。シャワーを浴びてから寝ることにするか。
「師匠、俺はシャワー浴びてから寝ることにするよ。師匠は風呂は如何する。一緒に入ろうか」
「淑女と一緒になんて何を考えているの。師匠に欲情するなんて言語道断よ」
シャーと毛を逆立たせて威嚇してくる。
怒られてしまった。親切心で聞いたのに、猫じゃ風呂なんて入れないんじゃないかな。そういえば汚れを落とす魔法があったな、あれを使うのかもしれないな。俺はそう理解すると手早くシャワーを浴びてベッドに入った。
明日から忙しくなるな、頑張って強くなろう。
翌朝まだ日が昇り切っていないが目が覚めた。昨日は早めに眠ったから、すぐさま目が覚めた。
俺はベッドから起き上がると昨日師匠から貰ったシャツとズボンに履き替える。肌触りのいいシャツだ。軽くて通気性も良さそうだな。手早く支度をし居間に行く。
カプセル式コーヒーメーカーのスイッチを入れると香ばしくいい匂いが立ち込める。
一口飲む。うまい、俺はカップと野菜くずを持って外に出る。
池に行くと一匹の亀が出迎えてくれた。俺が生まれる前からこの池に住んでいるイチローだ。イチローに野菜屑をあげると美味しそうに食べてくれた。ほっこりするぜ。
餌をあげ終え俺はあたりを見回す。すると家の裏の山に1本の巨木が生えていた。樹齢何百年という見た目の樹だ。昨日までこんな巨木はなかったが、これが世界樹なのだろう。
青々と葉が生い茂り雄大な姿で立っている。
左に目を向けると、鉱山の入り口のような空間が山に開いていた。これも昨日まではなかった。これが訓練用のダンジョンの入り口なのだろう。こんなことが出来るなんて師匠はすごいな。
少し歩き、昨日設置したドリア―ドの壁を見に行くと2体ほどゾンビが樹に絡まっていた。よく見ると近所、と言っても大分離れているが仙田さんとその奥さんだった。死んでいるのか少しも動く素振りを見せない。俺は顔見知りがゾンビになってしまったことに少なからずショックを受けたが、危険を冒したくないのでそんなに近寄らないことにする。
「ここにいたのね、探したわよ。早速ダンジョンに入るから準備なさい」
「おはよう師匠。少し見て回っていたんだ。あの世界樹ってすごいなあんなに大きい樹なんて見たことないよ」
「あれでもまだ成長途中よ。もっと大きくなるわ」
「そっか、それでもすごいよ。さてと朝食を食べて準備するよ。朝はパンと目玉焼きにするね」
そう言って俺たちは家に戻ることにした。
手早く朝食を作り食べ終わると、押し入れからリュックとキャンプ道具を取り出す。
リュック、ヘッドライト、LEDランタン、革の手袋を準備する。そういえば頭を保護するものも必要じゃないかな。俺は昔父親が使っていた安全ヘルメットも取り出した。準備は完了。
「師匠、準備できたよ」
俺はリュックを背負い、ヘルメットとヘッドライトを装着する。弓とLEDランタンはリュックに取り付け、ナイフは腰に取り付け槍を持った。
「それでは行きましょう」
師匠を先頭に俺たちはダンジョンの入り口へと向かった。
(続く)
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