第14話 ダンジョン探索8
何とか立ち上がることが出来るようになり、辺りを見回すとゾンビが居たところには宝箱が出現していた。
「辛い戦いだったわね。それでもよく克服したわ」
師匠が優しい。落ち込んでいるときに優しい言葉を掛けられると勘違いしてしまいそうだ。でも……猫なんだよな……
「少しは気づかってあげようと思ったけど必要なかったようね」
あ、ヤベ。忘れていた、師匠は俺の心を読んでいるのかってくらい察しが
いいんだった。
「そんな、何も考えていませんよ。いやだな、師匠」
「いいわ。早く次に行きましょう」
胡散臭そうに俺を見ながら先を促す。
俺は急いで宝箱を開ける。中には抗瘴気薬が五十本ほど入っていた。急いで仕舞うと第十エリアへ向かう階段を下りていった。
第十エリアに降りるとそこは道路だった。道路上には何もなく、ただ真っ直ぐ伸びる道があるだけだった。左右には建物もない。ただ、暗闇が広がっているだけだ。
「いよいよこのダンジョンも最終エリアよ。この道を進むとすぐボス戦になるわ」
師匠にそう言われ足を踏み出す。道路を進むと、目の前に公園の入り口が見える。さらに進むとその全容が確認できた。かなり広い公園だな。
園内には四、五百体はいるかと思われるゾンビがたむろしている。どうやら今は集団戦の訓練のようだ。公園らしく、雲梯、シーソーなどの遊具やベンチや噴水といった設備が配置されている。百体のゾンビを倒すのは中々骨が折れるな。しかも噛まれればアウト、捕まってはいけないし、無傷で倒さなければいけない。手に入れた抗瘴気薬はこの戦闘で使いたくはないしな。
「あれだけ多いと今の耕太でも骨ね。入り口を入らなければゾンビたちには気づかれないから観察することね」
師匠からのアドバイスを受け、ゾンビを観察する。
ゾンビ、今までの戦闘経験からこいつらは動きが遅いことが分かっている。そして腕力は死んでリミッターが外れているのかかなりの力がある。捕まれば振りほどくことは難しい。槍を掴まれ持っていかれたこともある。知能は弱いみたいで、攻撃を避けるようなことはしない。うん、あの最近のトレンドゾンビではなく初期型の特徴だな。
しばらく観察し俺はあることに気が付いた。あいつらは高いところを登れないことが分かった。この公園の中央に噴水が置かれており、それは周囲を掘り下げて作られている。噴水の近くをうろついているゾンビたちは、階段状になっているところを誰も上がろうとしていない。
この結果を踏まえ、俺は高いところから攻撃を仕掛けることにする。よく見れば、遊具の所にジャングルジムがある。これに上り上から攻撃しよう。
作戦を決め、意を決し公園の入り口をくぐる。
俺は走りながら近づいてくるゾンビへファイヤーバレットを放ちながら、ジャングルジムを登ることが出来た。よし、ここからゾンビ無双が始まるぜ。
「ファイヤーバレット十連発」
「うりゃ、死ね」
「槍を掴むな。ロックランス」
俺に気が付いたゾンビ共がワラワラとジャングルジムへ近づいてくる。俺を餌と認識したゾンビ共が濁った眼で見上げてくる。気持ち悪いぜ。俺は魔法や槍で上から攻撃を行い順調にゾンビ共を倒していく。
グラグラ。突然足元が揺れだした。鉄の棒を組み合わせただけの不安定な足場ではこの揺れは致命的だ。よく見るとゾンビ共がジャングルジムを掴み揺らしている。
マズイ……こいつら知能は弱いくせにバカ力のせいで、ジャングルジムが壊れてきたんだ。あ、足場を探さないと。どこか高いところはないか。
辺りを見回すが足場になりそうな設備はなかった。
どうしよう。このままじゃ落っこちてしまう。何か手はないか。そうだ、無いなら作ればいいじゃないか。俺は急いで魔法を構築する。
「ロックウォール」
俺が構築した魔法によって、すぐ近くに三メートル四方くらいの正方形の壁が生まれる。
てい、俺はジャンプし作った壁に飛び乗る。間一髪、飛び移ると同時にジャングルジムが崩れていった。
俺は再度攻撃を始める。
「ファイやボール、ファイヤーバレット」
「ライトイングウェイブ」
順調だったのも束の間、ゾンビ共が集まっているところで、ゾンビがゾンビをよじ登りゾンビ山が出来上がる。
マズイ、これはあの有名俳優の主演映画で壁をよじ登るゾンビの構図だ。
急いで新たな壁を作り、飛び移る。
こうして俺は壁を作っては攻撃し、作っては攻撃しを繰り返し何とか全部のゾンビを倒すことが出来た。
はあ、はあ、はあ、疲れた。魔力もスッカラカンダ。マジックポーションも使い切ってしまった。
「上出来よ。ゾンビに噛まれることなく全部倒せたわね。これでこの訓練ダンジョンもすべて攻略できたわ」
「ゾンビの力を見誤ったよ。高さがあれば大丈夫と思ったけど、足場は壊されるし、登ってくることもできるんだな」
「まあ、反省は次の機会に生かしなさい。ゾンビは生者の生命エネルギーを感知して向かってくるからね。ゾンビが集まっているところには人が大勢いるわ」
「なるほど。じゃあ街を探索する際には、救助の目安になるな」
「そういうことね。ただ、今回みたく多くのゾンビを相手にするから気を付けなさい」
呼吸も落ち着き、俺は何とか立ち上がる。ダンジョンクリアのご褒美を手に入れないとな。公園を見渡すと、光り輝いている花壇を見つける。なんだろうこれ。俺は花壇に近づいていく。見るとその辺に生えている雑草みたいな草だった。
「それが、抗瘴気薬の原料になる薬草よ」
「このギシギシの親戚見たいのがゾンビ対策の薬草か。見た目雑草だよな」
「この薬草はダンジョンでしか生息しない貴重なものよ。この辺の花壇はすべて薬草だから残さず持っていきなさい」
「了解」
俺は雑草狩りにいそしむ。すべての薬草を抜き終わる。
「師匠全部終わったよ」
俺がそう声をかけると突然辺りが光りだした。
眩しい。目を瞑っていても耐えられないくらいの光量だ。何が起きたんだ……少しして、光が弱くなったのを感じ、俺は目をあけた。
すると目の前に宝箱が置かれていた。
「ダンジョンクリアの報酬ね」
師匠が声をかける。
俺はドキドキしながら宝箱を開けた。
中には今までとは違って多くのアイテムが入っている。一番上には何やら書かれた手紙のようなものが置いてある。
先ずは、手紙を読んで見ることにする。
手紙には、『訓練ダンジョン攻略一人目おめでとう。褒美にとしてこれらを与えるから、これからも頑張ってほしい』と書かれていた。
どうやら俺が最初にダンジョンクリアしたようだ。頑張った甲斐があったな。しかし、疲れた。早く帰りたいな。俺はそう思い詳しくアイテムを見ることはせずリュックに仕舞うと、帰還することにした。
転移陣に乗りダンジョンの入り口まで転移する。一瞬にして、入り口に到着し外に出る。
外はすっかり暗くなっていた。疲れたよ、家に帰って風呂に入りたい。俺達は足早に家に戻っていった。
家に戻ると俺はすぐに風呂を沸かし入浴する。一日中、ダンジョンに籠っていたせいで汗と埃と血、そして沼の汚れで酷い状態だ。よく体を洗い、汚れを落とす。
ザブーンと湯船に浸かり一日の疲れを癒した。
風呂から上がり、時計を見ると七時を過ぎていた。おなかも減っているので俺は夕食の支度をする。カレーが残っていたので、カレーとウサギ肉のステーキを作る。俺の家は太陽光発電を用いたオール電化のため電気に困ることがなくて助かったぜ。料理が出来上がり俺と師匠は夕食を食べる。
さて、最後に手に入れたアイテムを確認するか。俺は今日手に入れたアイテムを取り出した。手に入れたのは、虹色に光る大きな水晶のような球体が五つ、古ぼけた本、直径四〇センチほどもある魔石、そして、巻物だった。
「かなりいいアイテムばかりね。さすが一番最初にクリアした報酬だけあるわ」
師匠も目を丸くして驚いている。
「その虹色に輝くのは、精霊石ね。精霊の力を閉じ込めたものよ。ゴーレム作成にも使えるし、魔道具を作るのにも使われるわ。かなりの大きさだから非常に貴重なモノね。その本は恐らく錬金ようのレシピ集よ。作りたいものを念じればレシピが出てくるわ。魔石も非常に大きい魔力を内包しているわね。それをリュックに使えば無限収納にランクアップするはずよ。どれも伝説級の代物ね。妾も初めて見たわ」
なんということでしょう。伝説級のアイテムをポンポンと手に入れてしまったらしい。俺は早速、リュックを無限収納にするべく魔石を使用する。まばゆい光を発しながら魔石の魔力がリュックに移動する。魔石から光が無くなる、どうやら問題なく無限収納になったようだ。残りのアイテムは今日はまだいいな。
時計を見ると午後十時を回っていた。そろそろ寝るか、そう思い俺はカレンダーを見る。そういえば今日は日曜日だったな。普通なら明日は出勤日だがもう会社に行くこともないだろう。週末をダンジョンで過ごし、俺は魔法の力を手に入れた。この力を使い町を、都市を、そして日本を取り戻そう。
自分を過大評価することも、全ての人を助けるなんて甘い理想も持つことはないが、出来る範囲で頑張ろうと思う。そして、魔法の理に生まれ変わってしまった地球に誕生したダンジョンも探索しなくてはいけない。
それには仲間が必要だろう。明日からはそれを踏まえて街を探索しよう。
終末世界での俺の探索はこれからが本番だ。
そう決意し俺は眠ることにする……
(続く)
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