第13話 ダンジョン探索7

 臭い沼に入りカエルのドロップアイテムを全て拾い先へ進む。俺は体に纏わりつく異臭にヘキヘキする。新たに習得したライトニングウェイブのお陰でカエルは出てこなくなった。エリアを探索し終えてボス部屋の前に到着する。

 ボス部屋は沼だった……その沼に今までよりもっとデカいカエルがデーンと構えていた。


 「あれはキングバトルフロッグよ。通常種よりも強いからね」


 もう嫌だ。さっさと倒して次にいこう。なんでもかんでもキングを付ければいいってもんでもないよ。俺はこのエリアで手に入れたマジックポーションを飲み魔力を回復する。

 さっきよりも魔力を込めてライトニングウェイブを構築しながら俺は部屋へ突入する。


 「くらえ、ライトニングウェイブ」


 俺が放った魔法がカエルの王様に向かっていく。広範囲魔法なので避けられる心配はない。

 カエルの王様は魔法を避けることが出来ず電撃を浴びる。


 グギャー、ゲ、ゲロ。とうめき声を上げて消えていった。

 ざまぁみろ、生ごみは焼却に限るな。俺は達成感に包まれる。

 しかし、魔法を練習して二日で大分上達した気がするぞ。それに戦い方も素人なのに上手く立ち回れるようになってきた。これもファンタジーだからか、これなら他の人々も強くなるのも簡単かもしれないな。師匠に聞いてみよう。


 「大分腕を上げてきたわね。耕太の疑問だけど、誰でもこんなに早く魔法を使えるようにはなれないわ。耕太が妾の弟子になったから、神々から加護が得られたのよ」


 なんと俺は選ばれし勇者だったのか。どうりで強くなったはずだ。俺はニマニマとしてしまう。


 「言っておくけれど、別に耕太でなくても良かったのよ。たまたま助けて弟子にしただけの話よ。それに言ってなかったけれど、この世界に来たのは妾だけではないわ。他にも管理人組合の要請により、妾と同じようにこの世界の住人を手助けしている者もいるわ」


 俺は選ばれし勇者ではなく、偶然の産物だったのか。だが、運がよかった。助けられていなかったらゾンビに喰われて奴らの仲間になっていただろうしな。それに他にも師匠みたいな超生物が助けてくれているらしいし、他の国も少しは安心だ。

 

 俺はそう理解し、ドロップ品とご褒美を集めることにする。

 カエルの王様のドロップ品は大きな魔石と皮のようなものだった。師匠に尋ねると、バトルフロッグの皮で耐熱性に優れた素材らしい。リュックに仕舞い宝箱を確認する。


 宝箱には、水筒が入っていた……


 「それは魔法の水筒ね。幾らでも飲み水が出てくるわ。探索や籠城には最適ね。この世界では井戸はあまり使われていないみたいだし、都市部の河川は飲むのには適してなさそうだから最適な魔道具ね」


 そう言われるとかなり便利な道具のようだ。早速飲んでみよう。俺は水筒を口に持っていく。冷たい水が喉を潤す。かなりうまい水だ。なんだか疲れも取れていく感じがする。魔道具を試し終え次に向かう。


 第八エリアはだだっ広い草原タイプだった。馬のような生物や見るからに肉食獣のような生物が優雅に走ったり、寝転んだりしている。


 「ここは草原ね。ここにいるモンスターは攻撃的なのは多くないわ。さっさとすすみましょう」


 師匠がそういうので俺は索敵しながら進む。


 運が良かったのか、モンスターに襲われることなくボスの部屋に進むことができた。


 ボス部屋を覗くとモンスターが居なかった。


 「モンスターが居ないぞ。どうなっているんだ」


 「たまにこの部屋のようにボスが居ない部屋があることもあるわ。ただ攻略の宝箱は出現するから手に入れておくことね」


 俺が部屋に入ると宝箱が出現した。開けてみると中には見たことがない金属が入っていた。


 「それはミスリルね。魔力を良く通す金属よ」


 ファンタジー世界でお馴染みの金属だったようだ。武器や防具を作る素材になるのだろう。俺はリュックに仕舞い次のエリアに進むことにする。


 第九エリアに進むとそこは、よく言慣れた光景が広がっていた。学校の廊下で教室のような部屋が見える。


 「ここからが本番よ。気を付けなさい」


 師匠が意味深に告げる。


 一歩踏み出すと、強烈な匂いが俺の鼻に付く。この匂いには覚えがあるぞ。そうだ、あの日、世界が壊れた時の匂いだ。この何かが腐った匂いと血の匂いの元が世界を破滅に導いたんだ。


 俺はこれから何が出てくるか理解した。槍を強く握りしめ先へ進む。


 ウー、ウーと唸る声が聞こえる。教室の開いたドアから人の形をしたバケモノが現れた。学生なのか学ランを着ている。


 白く濁った眼が俺を見つめる。両腕を前にダラリと伸ばし、ヨタヨタと覚束ない足で俺の所へ向かってくる。学ランのボタンが外れていて、腹から内臓が飛び出しているのが見える。口は今まで食事をしていたのか真っ赤に濡れていた。


 最愛の恋人を見つけたかのように俺に向かってくる……ゾンビ。


 俺は槍を構えるとゾンビの心臓を突き刺す。ネチャッとした肉の感触が伝わる。

 しかし、心臓を刺されたのに今何かしたかと言わんばかりに俺に抱き着こうとしてくる。

 俺はバックステップしゾンビから離れ、ファイヤーボールを放つ。

 ボンと火球が当たり、ゾンビを燃やす……燃やされたゾンビはそれでも俺に近づいてくる。


 「どうなっているんだ、やめろ、く、来るんじゃねえぇぇぇぇ」


 俺はパニックになる。指の力が抜けていく、槍がガタガタと振動している。

 どうしよう、助けて、師匠。俺はそう願ってしまうが、師匠が助けてくれる気配はしない。ジッと俺を見つめているだけのようだ。なんでだよ、助けてくれよ。あの時は助けてくれたじゃないか……このままじゃ喰われるよ、俺。


 気が遠くなりそうに成りかけたその時、師匠の言葉を思い出した。そうだ、ゾンビは瘴気に穢されているんだ。そして瘴気は頭に溜まっているんだった。俺は指に力を入れ、震える槍を真っ直ぐ構える。


 「これで成仏しろぉぉぉぉぉ」


 ゾンビの頭から槍が生える。グチャっとした脳が壊れる感触が手に残る。頭部を破壊されてゾンビは倒れていく。肉の焼ける匂いが充満していた……


 「危ない所だったけれど……倒せたようね。よくやったわね」


 師匠が今まで聞いたことがない優しい声で話しかけてくれる。


 「ああ、倒せたよ。最初の攻撃でも動いた時には何も考えられないくらいパニックになったし。見た目も気持ち悪いし、それに人間を殺す感触がまだ残っているよ」


 「あれはもう人間ではないわ。瘴気に冒されて死んでそれでも生者を求めるモンスターよ。慈悲は必要ないわ。機能停止させることが唯一の供養よ」


 傍から聞くと冷たく感じてしまうが、冷たさの裏に俺への気遣を感じる。


 「さて、ゾンビの倒し方も分かったようね。先へ進みましょう。ここは学び舎のようだけれど各部屋に宝箱が設置してあるはずよ」


 ゾンビが出てきた教室を覗くと教卓の上に宝箱が置かれている。部屋の中を覗くとゾンビは居ないようだ。俺は教室に入り宝箱を開ける。中には抗瘴気薬が5本入っていた。これで一歩人類を救うことに近づいたな。教室からでて先を行く。


 廊下を進み、ゾンビを倒していく。ゾンビはドロップ品がないため宝箱からしかこのエリアではアイテムを入手できない。教室から出てくるゾンビが多いいが、中には教室の中で倒れているゾンビもいる。見た目機能停止しているように見えるが、近づくといきなり足を掴もうとしてくる。こういうゾンビもいるのか……気を抜かず倒れていても構わず頭を突き刺すことにする。サーチアンドデストロイ、見敵必殺だ。


 探索の結果、このエリアで入手できたのは、抗瘴気薬五十本、ポーション十本、マジックポーション二十本、ミスリル鉱石だった。


 単体でしかゾンビが現れず余裕を持って倒すことが出来るようになった。

 ゾンビにはファイヤーボールやロックランスよりファイヤーバレットによる頭部を狙う魔法の方が効率がいいぞ。


 そうして俺たちはボス部屋に到着する。


 ボス部屋には二匹のゾンビしかいなかった。中に入りゾンビに相対する。俺に気が付き二体のゾンビが俺のほうへ向く。そこで驚くことになった。


 「親父……、お袋、とっくに死んだはずだろ、なんでゾンビになっているんだよ。ちゃんと荼毘に付して墓に埋葬したんだぞ……」


 俺は目の前の光景が信じられず、声に出てしまう。


 「落ち着いて、あれは単なるゾンビよ。この部屋は幻影の魔法が掛けられているようね。侵入者の親しい人の姿を見せているだけよ」


 パニックになりそうな俺を師匠が落ち着かせてくれた。


 「なんて意地の悪い魔法だ。なんだってこんなことをする必要があるんだよ」


 「この先、耕太の親しい人がゾンビになる可能性もあるでしょう。その耐性を付けるためだと思うわ」


 幾ら耐性を付けるったってこれは酷いぞ。


 「親父、お袋、ごめんな」


 ゾンビに謝りながら俺は魔法を放った……


 ファイヤーバレットにより頭部が破裂し、二体のゾンビは後ろに倒れ、そして消えていった。


 グウェ、オエェェェ、吐き気が込み上げ戻してしまう。苦いよ……苦しいな……


 俺はしばらく立ち上がることが出来なかった。

 

 (続く)

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