第12話 ダンジョン探索6
いいアイテムを手に入れホクホク顔で俺と師匠は第六エリアに突入した。第六エリアも洞窟タイプだった。同じ景色ばかりだと飽きてくるな。
「すこしスピードアップしましょうか。そろそろお昼も過ぎる時間だわ」
ダンジョンに潜ると時間の感覚が無くなるな。腕時計は壊れると嫌だから外していたのだ。街を探索したときに頑丈な時計も探すかな。俺は脳内の今後に必要な物リストに腕時計とメモする。そして、師匠に言われ俺たちは探索スピードを上げることにした。
第六エリアで出現するモンスターはゴブリンジェネラルを筆頭とするゴブリンの部隊だった。俺はロックランスと威力を上げることを意識したファイヤーボールを使いモンスターを蹴散らしていく。このエリアは分かれ道などは無くひたすら一本道だった。そしてなんの波乱もなくボス部屋に到着する。ゴブリン、ゴブリンアーチャー、ゴブリンンマジシャン、ゴブリンジェネラルと続いたので次のボスはほとんど予想が出来ていたが、案の定、ボスはゴブリンキングだった。ジェネラルよりも背が高く日本人男子の平均身長くらいあるゴブリンキングは偉そうに一段高いところに陣取っていた。
「ゴブリンキングは居るだけで他のゴブリンの能力を上げるの。部下のゴブリンたちがやられると戦うのだけどジェネラルよりも数倍強いのよ」
師匠が教えてくれる。さすがキングと名が付くだけあって一筋縄では行かないようだ。取りあえず俺はジェネラル以下をいつものパターンでサクッと倒すことにする。
「ロックランス、アンド、ファイヤーボール」
避けられることなく倒すことができた。
「ヨグモオレザマノブカヲコロシテクレタナ」
驚くことにキングが人間の言葉を話した。片言だがしっかり分かる。
「言い忘れていたけど、ゴブリンキングは人語を操ることが出来るくらい知能があるわ。小手先の技じゃ倒すことは難しいわよ」
師匠……そういう事は早くいってください……やっぱ猫の脳みそは小さいから忘れやすいのかな。
「キングに殺されるより先に妾が八つ裂きにしてあげましょうか」
イケネ、声に出ていたようだ。師匠から禍々しいほどの魔力が溢れだす。
「す、すみません。ごめんなさい。許してください」
俺はキングがいるのも忘れて師匠に謝る。
ハァ、師匠がため息を吐き俺から距離を取る。
「ふざけてないでさっさと倒しなさい」
師匠の怒りも解けたようだ。俺は先ほどの師匠から受けたプレッシャーをキングにぶつけることにする。怖かったんだからね……
戦いは激しかった。キングは身の丈ほどもある大剣を振り回し、叩き殺す勢いで振り下ろす。大剣が地面にぶつかり窪みを作り出す。俺は防戦一方となり、何とか攻撃を避けることしかできなかった。
何か手はないか、この槍で大剣とぶつかった際には叩き折られてしまう。そうか強度を上げればいいんだ。ビックスライムと戦った時に師匠が槍に掛けてくれた火の魔法のように魔力で武器を強化すればいいんじゃないか。
俺は意識を集中して、魔力で槍を強化しようとする……上手くいったぜ。
「うりゃ」
俺の命を刈り取ろうと向かってきた大剣を槍で払う。
ゴン、とぶつかる大きな音がするが槍は折れなかった。むしろ衝撃でゴブリンキングがよろけた。チャンス、渾身の一撃を叩き込む。
「グフ、ニンンゲンナンガニヤラレルドワ……グヴォ」
ゴブリンは死に際にそう言い放ち倒れていった。
今までで一番強かったな。スーハ―、呼吸を整え俺はドロップ品を確認する。ゴブリンキングの魔石は今までで一番大きく握りこぶしほどもある。どおりで強いはずだ。魔石を回収し、俺は宝箱を探すが今回は何も出てこなかった。
おかしいな、宝箱が出ないなんて今までなかったんだが……
「師匠、宝……バコ」
師匠に確認しようとすると、突然一畳ほどの地面に植物が生い茂った。
「な、なんだ。これは」
驚きの声を上げてしまう。
「これは、ポーションに使う薬草ね。ボスを倒すことで薬草の領域が解放されたようよ」
師匠から驚きの事実を知る。ダンジョンを探し回ったが全く薬草関係の素材には出会わなかったからだ。
「このヨモギの親戚見たいのが薬草か。こんなところに生えてくるなんて……」
「今後はここに来れば薬草は手に入るわね。ただ毎回ボスを倒さないといけないけれどもね。薬草は全部取って平気よ。またすぐ生えてくるわ」
ダンジョンでは取りつくして全滅ということはないようだ。環境にも配慮された不思議な施設だぜ。俺は急いで全部引き抜くことにする。
始めてボスらしいボスを倒して少し疲れたぜ。キングはかなり強かったしな。俺がそう思いながら薬草を引っこ抜いていると、
「そういえば今回は、二―○ルンナントカーとか叫ばなかったわね」
師匠が俺の傷を抉る……
全ての薬草をリュックにしまい俺達は遅めの昼食を食べることにする。簡単におにぎりを握って来たのでそれを食べる。具は、昆布、梅干し、そして、猫の好物おかかだ。おかかのおにぎりを食べる師匠は猫みたいでほっこりする。
「にゃ、にゃんて美味しいのかしら。これは美味だわ」
猫語になってます師匠……やはり猫におかかは鉄板のようだ。一心不乱におかかのおにぎりを食べている。俺も自分の食事に集中すると突然、
「うにゃー、酸っぱいにゃ、にゃんなのにゃこの果実は」
梅干しを食べてしまったようだ。猫語に拍車がかかっているぞ。地面を転げまわる師匠は猫そのものを体現している。
取り乱す自分に気が付いたのか、師匠はハッと顔を上げる。
「こ、耕太よ、この果実は妾の口に合わないようね。今度から気を付けなさい」
今までの威厳が嘘のような態度を見てしまったあとでは、どう取り繕ってもあとの祭りだな。まあ、ここは大人(三十歳彼女無し)の対応として見なかったことにしておこう。
「分かった、今度からおかかメインにするよ」
俺はウィンクする
さて、腹も満たされたので探索の続きを再開する。
第七エリアは、沼だった。一応、人ひとりが歩けるような道があるが辺り一面沼が広がっている。ベトットした空気が肌に纏わりつく。淀んでいるせいか匂いも強い。こんなところは早いところ抜け出すに限るな。
俺が一歩踏み出すと、突然水面から何かが飛んできた。
「オワッ、危ねえ」
間一髪避けることができた。何か水のようなものが高圧で飛んできたようだ。
ざばぁ、水面から大きなカエルが跳び出てきた。
ゲロゲロ、ゲロゲロと威嚇してくる。ヘドロのような沼の底に居るせいか臭くてかなわない。
「そいつはバトルフロッグよ。水を圧縮した攻撃と舌を使った攻撃に気を付けなさい」
師匠がアドバイスをくれる。丸焼きにしてやるぜ。
「ファイヤーボール」
グワッとカエルが水鉄砲を飛ばして、俺のファイヤーボールを消滅させる。どうやらあの水鉄砲は魔法のようだ。普通の水なら俺の魔法を打ち消すことなんて出来ないはずだからな。それなら火がダメならこれだ
「貫け、ロックランス」
地面からいきなり生える岩の槍に対応できずカエルは貫かれる。見た目、百舌鳥にやられたカエルのようだ。カエルはピクピクしそして息絶えて消えていった。後に残されたのは何やら異臭を放つ、ブヨブヨとした黒い物体だった。
「それはバトルフロッグの肝よ。それと先ほど手に入れた薬草でマジックポーションを調合出来るわ」
なんだと……あの死ぬほど臭い匂いの原因はこの肝のせいだったのか。マジックポーションは有用だがあの匂いは勘弁してほしい。自分で調合するときには是非とも匂いを消す方法を考えよう。俺はそう決意しドロップ品を拾い先に進む。
途中何度も沼からカエルが現れては戦う羽目になる。索敵をしながら進んでいるが、まだ俺の能力が低いせいか平面方向しか索敵できないため、沼に潜っているカエルを補足することができない。カエルどもが跳びかかってくるせいで、探索のスピードが落ちている。こんな臭い沼に長い時間居たくないぜ。カエルが沼に潜っていても攻撃できればいいのだが。ファイヤーボールをだといくら魔法でも有り余る水の中では消えてしまうだろうし、ロックランスでも何処にカエルがいるか分からないから当てることができないぞ。
沼、カエル、カエルは水生生物、ん、そうだこんな時のゲームや小説の知識だ。
フフフフ、カエルめこんがり焼いてやるぜ。俺は早速魔法の構築に入る。ある程度広い範囲に攻撃できる魔法にしないとな。よし出来そうだ。
「天の怒り、その裁きをを汝に与えん ライトニングウェイブ」
俺が魔法を放つと、拡散する雷撃が発生し、その電撃が波のように前方へと進んでいった。ごっそりと抜けた魔力を感じつつ辺りを見渡すと、プカプカと腹を出して大量のカエルどもが浮かんできた。どうやら成功のようだ。水面に上がったカエルはすぐに煙のように消えていき、腐った匂いを放つ肝を落とす。うーん、拾いたくないな。このまま放置でいいかな。沼にも入りたくないしな。俺がそんなことを考えていると、
「耕太、その恥ずかしい呪文は何なの。聞いているこっちが恥ずかしいのだけれど。いい大人なのだから外聞ていうものを考えなさいな。何が、天の怒り、その裁きをを汝に与えん、よ恥ずかしくてしょうがないわね。妾がそんな恥ずかしい呪文を教えたと思われたら心外ね」
……また出てしまったようだ。改めて人の口から聞くと赤面してしまう。肩を落としながら先へ進もうとすると師匠がまったをかけた。
「ドロップアイテムを拾わずに何処に行くつもり。匂いがヤダ、沼に入りたくないなんて理由は承知しないわよ。三十秒以内にすべて拾わないとお仕置きだからね」
なんて厳しいんだ、この師匠は。俺は天を仰いでしまう。
(続く)
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