第15話 街探索
翌朝、昨日の疲れも引きづることなく目を覚ますことができた。
いい目覚めだ、俺はベッドから起き上がり着替えをする。酒とラーメンという戦場を一緒に経験した戦友である俺の脂肪は昨日から行方不明で、新たに筋肉という友人が出来た。また一段と筋肉が付いたようだ。腹筋の線もお昨日より深くなっている。
朝のコーヒーを飲みながら俺はイチローに餌を上げるため外に出る。庭の池まで行くとそこには目を疑う光景が広がっていた。
イチローの池の周囲を光る何かがユラユラと漂っている。そんな光る何かをイチローは首を長くして追いかけたりしている。気のせいかイチローもデカくなったみたいに見える。
その不思議な光景をしばらく餌を与えながら見ていたが、いくら考えてもよくわからないので、後で師匠に聞いてみようと思いその場をあとにする。
次に畑の様子を見に行くと、朝から作業用のゴーレムが農作に勤しんでいる。育てている野菜もすくすくと成長している。二日で成長するなんてすごいな……
俺は野菜畑を見終わると家に戻ることにした。
「光って飛んでいるのは精霊ね。耕太のペットの亀は精霊樹の影響で成長しているようね」
開口一番、師匠に尋ねるとそう回答された。家の裏に植えた精霊樹はたいそうな代物のようだ。気を取り直し、今後の予定を師匠に確認する。
「そうね。耕太は街を探索しなさい、私は拠点で留守番しているわ。ある程度なら一人でできるでしょう。ほらこれを持っていきなさい」
師匠から何かメダルが半分に欠けたようなものを貰う。
「なんだいこれは」
「その半分に割れたメダルは対になっていて、もう片方を持った者と例え遠く離れたとしても会話することができるようになるのよ」
へぇ、携帯電話みたいなものか。電話代も掛からないから家計にも優しいな。
「何か困ったことが起きた場合はそれを使って妾に連絡しなさい」
「了解、なんとか一人でも出来るところを見せてやるぜ」
俺は胸を張りそういった。
「何事も慎重に行くのよ。失敗すれば死んでしまうからね」
師匠にそう注意され俺は気を引き締める。
さて、探索の準備をするか。といっても無限収納のリュックがあるから準備するほどでもないんだけでな。取りあえず、槍は移動の際に邪魔になりそうだから仕舞っておこう。ナイフと弓を装備することにしてあとはダンジョン探索と同じでいいな。よし準備できた。街へ繰り出すか
「じゃあ師匠行ってきます」
俺はそう声をかけて家を出る。門まで行くと、桜の木で出来たウッドゴーレムが門番のように立っている。
「お勤めご苦労様、街に探索に行くから通るよ」
そう声をかけると、ゴーレムは頷きどいてくれる。俺は門から外に出る。
さて、ここからが本番だ。先ずは歩いて街に向かうことにする。出勤の時は街の駅まで車で行ってそこから電車で会社まで言っているのだけれど、前回は師匠の転移で家まで戻って来たため車がないのだ。先ずは街の駐車場まで歩いていかなければならない。
俺は弓に矢を掛けて歩き出す。
しばらくは周りは畑や田んぼしかないが、ゾンビがいつ現れてもいいように心がける。ダンジョンで習得した索敵はもちろん掛けている。おっと、一体の反応があるぞ。俺は索敵に引っかかったゾンビに矢を放つ。シュッと指から矢が離れ、ゾンビの頭に命中する。うまく倒せたな。俺はそのまま通りすぎる。
「戻れ」
そういうとゾンビの頭に刺さった矢が矢筒に戻ってくる。俺が念じれば自動的に戻ってくる矢のおかげで俺は危なげなくその後もゾンビを倒していく。途中、数件の家があったが誰もいなくもぬけの殻だった。ゾンビにやられたか、街のほうに避難したのだろう。後者ならいいな……
1時間ほど歩き、俺は街に到着する。さてと先ずは駅の近くの駐車場に向かうか。俺は車を目指しさらに歩き続ける。街に入ってから、ゾンビの数が急激に増えてきた。どうやら生存者がいる様だ。一軒家のドアをゾンビたちが引っ掻いたりしている。窓は板が打ち付けられていて侵入対策はされているようだ。
2階の窓から外を眺める五〇代くらいのおっさんが見える。
俺は手を振って気づいて貰えるようにする。おっと、おっさんが気づいたようだ、早く逃げろと言っているみたいだ。
おっさんの声に気づいたのか、数体のゾンビがさらに近寄ってきた。あのおっさん俺を気遣っているのか、殺そうとしているのかどっちだよ……まったく。俺は弓を構え順番にゾンビを倒していく。
五分もしないうちにドアの周りにいたゾンビを倒すことが出来た。おっさんが口をあんぐり上げて見ている。
「おーい、もうゾンビは近くにいないみたいだから入れてくれないかな」
俺がそう言うと、おっさんは首が取れるくらい激しく上下に頭を振っている。どうやら入れてくれるようだ。少しすると、鍵が開く音がし、ドアが開かれる。
玄関の中に入り急いで鍵をかける。
「君はすごいな。あいつらを簡単に倒すなんて。しかし、どうして街を歩いているんだ。自殺行為だぞ」
おっさんがすごい勢いで話しかけてきた。多分だが、俺の状況を話してもすぐには信じてもらえないだろう。心苦しいが少し嘘をつくことにしよう。
「突然すみません。俺は梶木 耕太っていいます。家にあいつらが侵入して逃げてきたんです。弓は亡くなった祖父から教えて貰って使えるんです」
「そうか大変だったね。私は浦部だ。少し休んでいくといい」
「いえ、食料とかも探したいのですぐに出かけます。ところで、街の人はどこに避難しているんですか。何か知りませんか」
俺は状況確認のため質問する。
「いや、私も何が何だか分からないんだ。気が付いたら人が人を襲いだしてね。私と家内は一緒に家の中にいて助かったんだ。急いで窓を家具を壊して塞いであいつらが入れないようにした訳さ。だから他の人たちがどうなったかまでは分からないんだ。おそらく学校や公民館などに避難していると思うが……」
「そうですか……運が良かったですね。じゃあ俺もその避難施設に行ってみます。もしよければ一緒に行きませんか」
「うれしいが、家内の調子が悪くてね。だから……今は一緒に行けないんだ」
なんだか歯切れが悪い感じだな。
「奥さん大丈夫ですか。あの俺薬持っているんで挨拶がてら奥さんに持っていきましょう」
俺がそういって上がろうとすると、
「いや、気持ちだけでいいよ。悪いが家内は今寝ているんだ。だからそっとしといてほしいな」
何となくピンと来たぞ。この様子だとゾンビに噛まれてしまったようだな。ただ抗瘴気薬を渡してゾンビにならない薬ですと言っても信じてもらえないだろうな。しょうがない、ここは風邪薬として渡すか。
「そうですか。それはすみません。ならこれを差し上げますんで使ってください。よく効きますから。俺もこの間、犬に噛まれちゃってばい菌が移ったのか酷い高熱が出たんですけど、これを飲んだらすぐ治ったんですよ」
明るい感じでそう伝えると俺はおっさんに、抗瘴気薬を一本渡した。
「そ、そうかい。それはありがとう。家内も喜ぶよ」
おっさんは若干怪しそうに俺を見ながらそういう。そろそろ行くかね。
「では失礼します。これからも気を付けてください」
俺はおっさんの家を後にした……信じてくれたかな……どこかでゾンビのうめき声が聞こえたような気がした。
(続く)
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