第16話 街探索2

 おっさんの家を後にし俺は無事自分の車がある駐車場にやってきた。俺の愛車である軽トラックは無事であろうか。俺が借りている駐車場は屋外のため少し心配になる。

 良かった、無事だった。俺は鍵を開けようとドアに近づくが、その時こういう展開時のテンプレを思い出す。そう、車に乗り込むとゾンビが居たっていうあれだ。幸い軽トラは二人乗りのため車内に乗り込まれている心配はない。しかし、荷台や車の下はどうだろう……俺はそっと車の下を覗く。よし、いない、大丈夫だ。荷台はどうだろう……俺はそっと荷台を覗くと、いた、女性のゾンビが倒れているのを見つけた。大学生くらいだろうか、うつ伏せのため顔は見えないが服装からそう判断する。


 「ごめんな。成仏してくれ」


 俺は槍を取り出しゾンビを倒し荷台から下した。


 「よし、これで大丈夫だろう」


 俺は軽トラに乗り込みエンジンを掛ける。エンジンが元気に目覚める。


 「さてと先ずは食料を探すか。この近くにスーパーがあったな」


 アクセルを踏み軽トラが動き出す。


 車で移動しながら街の景色を眺める。酷いものだな……そこら中でゾンビが徘徊している。ガスが漏れたのか、火事になっている建物もある。エンジンの音でゾンビが近寄ってくるが構わず走行する。後で洗車しなくちゃな。


 しかし、走りにくいな。乗り捨てられた車が至る所にあるため、通行不能になっている場所が多くある。一度車から降りて、無限収納に軽トラを仕舞い歩きを強いられる。


 「めんどくさい……、このリュックのおかげで乗り捨てなくていいけれども、放置自動車は今後邪魔になるよな。どうすればいいだろう」


 俺はそんな事を考えるがいい知恵は浮かばない。まあしょうがない、そのうちいい考えも浮かぶだろう。よし、スーパーが見えてきた。


 「あ、あのスーパーにも人がいるな」


 遠目からでもスーパーの周りにゾンビがウジャウジャといるのが見える。あれだけゾンビいるとなるとスーパーの中にそれなりに人がいるのだろう。


 「しかし、あれだけゾンビが居ると骨だな。店内の人もいい人か分からないし、頼んでも開けてくれるかな……」


 こういう場合、避難している人が占有を主張して中に入れてくれないっていうのがテンプレだしな。うーん……まあ、いいか、行ってみよう。脅されても今の俺なら大丈夫だしな。


 俺はそう考えゾンビを倒す準備をする。


 「ファイヤーバレット」


 俺は魔法を唱える。炎の弾丸の群れがゾンビを粉砕する。だがまだ全部は倒せていない。俺はまた魔法を唱える。


 「ファイヤーバレット、ファイヤーバレット」


 いくつもの弾丸をゾンビの群れに解き放つ。


 ゾンビ共は頭を打ちぬかれどんどん倒れていく。中には当たり所を外れて動いているのもいる。俺は落ち着いて処理していく。

 しばらくして、すべてのゾンビを倒すことが出来た。


 「ふぅ、よしこれでいいだろう。しかし、沢山いたな。そういえば、ゾンビは生前の行為を繰り返すとかなんとか聞いたことがあるな、映画でだけど」


 なんだか独り言が多いな俺……


 ゾンビを倒し終えスーパーへ向かっていくが、シャッターが閉じている。うーん、開きそうもないな。従業員の出入り口とかあるはずだからそっちへまわろう。

 俺はスーパーの従業員入り口に回り、ドアを開けようとするが鍵がかかっているのか開けることが出来なかった。取りあえず武器を全てしまうと、


 「すみません、どなたかいませんか。開けてください」


 ドンドンとドアを叩き中にいるであろう人たちに声を掛ける。しばらくドアを叩いていると、


 「静かにしろ、ドアを叩くな。あいつ等が来るだろう。ここは一杯だからどこか別の所へいけ」


 ドア越しに男の声が聞こえる。二〇代くらいだろう。なんだか粗野な感じがするな。しかし、思った通りの展開になったぞ。


 「ゾンビは今はいないです。早く開けてください。お願いします」


 俺は更に食い下がりドアを叩く。

 ガチャリ、鍵が開く音が聞こえドアが開くと同時に俺は胸倉を掴まれドアの中に吸い込まれた。


 「うるせぇんだよ、この野郎。ぶっ殺すぞ」


 金髪のヤンキーがナイフを向けて怒鳴る。先週までの俺なら漏らして、財布ごと差し出しているところだ。


 「大人しくしてろよ。ちょっとでも動けばぶっ殺してやるからな」


 金髪のヤンキーが凄んでくる。俺はヤンキーに促されスーパーの中を進んだ。



 「斉藤、その男は誰だ」


 従業員控室だろうか、部屋に連行されると、偉そうなヤンキーが声を掛けてきた。耳から口にチェーンを付けている。


 「木戸さん、こいつが外のドアの前で喚いているから連れてきたんだ」


 どうやら金髪ヤンキーのボスのようだ。


 「おい、てめぇ大人しくしなかったらこれを食らわすからな」


 木戸と呼ばれたヤンキーがこれ見よがしに拳銃を見せる。警官とかが持っている拳銃だ。確かニュー南部って言ったかな。どう見ても警官には見えないな。奪ったのかな。部屋の中に猿ぐつわを噛まされ、縄で縛られている中年の警官が横たわっていた。殴られたのか頭から血を流し乾いた跡が見える。他にも年配の夫婦らしき男女や、若い女性や小学生くらいの女の子など六人ほどが壁を背に座っている。


 「おい、分かったのか、どうなんだ」


 木戸が拳銃を俺の頬に押し当て再度凄んできた。


 「わ、わかった。言う通りにするから殺さないで」


 一先ず俺は大人しくすることにする。この二人以外にも仲間がいるかもしれないしな。


 「木戸さん、小西さんと田辺はどこ行ったんですか」


 斉藤と呼ばれた金髪ヤンキーが木戸に尋ねる。


 「あいつらは女二人連れて食料を取りに行ってたぞ」


 どうやら、あと二人仲間がいるようだ。しかも、女性を連れて行ったようだ。ただ食料の運ぶ用で女性を連れて行っただけとも考えられない。そっちも何とか早くいかないと。最悪な連中だな。


 「そうですか。なら俺も手伝いに行きますわ。おい、お前こっちへ来い」


 斉藤が縛られている女性の一人に近づいていく。


 「い、いや、来ないで」


 怯えた表情で嫌がる女性に斉藤がナイフを向けて叫ぶ。


 「うっせーんだよ。いいから黙って言うことを聞けばいいんだよ。俺たちのお陰でゾンビ共が入ってこないんだからな」


 斉藤が女性の手を引っ張る。


 「お姉ちゃんに近づくな」


 小学生くらいの女の子が斉藤に突進した。


 「黙っていろ、クソガキが」


 斉藤は女の子を突き飛ばし、お姉ちゃんと呼ばれた女性を強引に引っ張る。


 「り、里香。お願い妹に乱暴しないで」


 女性が叫ぶ。

 

 俺は我慢出来ず金髪ヤンキーをぶっ飛ばした。


 殴られた衝撃で壁にぶつかり斉藤は倒れる。気を失ったのかピクリとも動かない。

 こ、殺してないよね……


 「てめぇ死にたいらしいな」


 木戸が拳銃を俺の頭に向けてきた。間髪入れず、拳銃を持つ手首を握り、思いっきり捻る。


 「グギャ、イテェ、てめぇぶっ殺してやる」

 

 ボキッ、何かが折れる音が聞こえ、木戸は憎しみの目で俺を睨む。俺は思いっきり木戸を殴りつけ、意識を失わせ、手に握っていた拳銃も取り上げる。


 「だ、大丈夫か。今縄を解くからね」


 俺は急いで、縛られている警官や女性の縄を解き、その縄を使って木戸と斉藤を縛る。


 「あ、ありがとうございます。気をつけてください。他にも二人仲間がいるんです」


 斉藤に連れ去られそうになった女性が俺に話しかけてくる。綺麗な女性だ。大学生くらいだろうか。かなり持てるだろうな。俺は場違いな感想を抱いてしまう。


 「分かっている。ほかの二人はどこにいるんだ。」


 「この人たちの仲間二人に連れていかれた女性二人が売り場の方にいるはずです。多分……酷いことをされていると思います……」


 女性が言いよどむ。


 「分かった。俺はこれから売り場に向かうよ。君たちはここにいて身を守っていてくれ。そこの警官が目を覚ましたらこれを飲ませてほしい」


 俺はリュックからポーションを取り出し、女性に渡す。


 「気を付けてください。もう一人も銃を持っています」


 女性にそういわれ俺はヤンキーの仲間をぶん殴りに売り場へと向かった。



 (続く)

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