第2話 現状説明
「おい化け猫、説明してくれ。一体何が起きてるんだ。お前は誰で目的は何だ」
俺はメアリーと名乗る化け猫と誰もいないコーヒーショップに入った。落ち着いて話せる場所に移動するよう化け猫が提案したからだ。
店内は荒れており、至る所に血痕やら腕や足の残りがあったりしたが、化け猫がまたおかしな力でシミ一つない空間へと直していた。
混乱する俺を呆れたように見つめる。
「落ち着きなさい。何事も冷静に対処しなければ何も出来ないわよ。それに妾は化け猫ではないわ。偉大なる大魔導士メアリー=アンドリュースよ」
冷静に化け猫もといメアリーと名乗る猫に諭されてしまった。しかも言うに事欠いて大魔導士だと……魔法なんてあるわけがない。そんなおとぎ話は物語の中だけだ……そう思ったが落ち着いて考えれば、ゾンビみたいなのが出てくる自体が物語だし、俺の体や部屋を綺麗にした行為も尋常な出来事ではないとも思った。
「少しは落ち着いたかしら。これから其方が望む説明をしてあげるわ。っとその前に其方の名前を教えてくれるかしら。自己紹介は大事よ。」
猫に常識を教えられてしまった。何とか落ち着いた俺は自己紹介をする。
「俺は梶木耕太。年齢は29歳で商社に勤めるサラリーマンだ。さっきは奴らに食われそうなところを助けてくれてありがとう。一体なにが起きてるか説明して欲しいが、ここも危なくないのか。奴らは今も外にいるんだぞ」
落ち着けたかと思ったが、まだだったようだ。一気に質問してしまった。
「妾は偉大なる大魔導士メアリー=アンドリュース。管理者の要請でこの世界の者どもの手助けをするよう依頼された者よ。ゾンビどもはここへは来ないわ。結界を張っているから気づかれないし、入っても来れないわね。まあ長くなるから何か飲みながらお聞きなさいな」
メアリーはそう言って何やら呟くと、テーブルの上に湯気を放つカップが現れた。カップは温かく、いい匂いを放っている。俺は一口飲む。気分が安らぐ美味しいお茶だ。窓の外ではグロテスクな姿をした元人間のゾンビが歩き回っているのが見えるが、何とか見ないようにする。
「それでは説明するわね。そもそも、世界はこの地球だけではなくそのほかにもたくさん存在していて、それが積層してしているの。そして積層した世界が横方向にも無数に存在しているわけよ。分かりやすく言うと、ビルと呼ばれる高層建築物のワンフロアーが銀河系を含むこの世界という感じね。それぞれのビルには管理人、別の言い方だと神様がいてそれぞれの建物を管理しているのだけれど、中には何棟もビルを管理する神様がいる場合もあるわ。今起こっている事象は、そのビルとビルを隔てる壁に穴が開いて瘴気と呼ばれる要素が流入してしまった結果よ。ここまではいいかしら」
メアリーは一旦話を切り俺に問いかけた。
「ビルのワンフロアーが俺たちの世界ってことは理解できた。だが壁に穴が開いたせいでゾンビが出たとはどういうことだ。なんで穴が開いたんだ」
「死霊、其方たちの言葉だとゾンビね。ゾンビが発生した理由はその管理人がバカやった結果なのよ。そもそも、壁は簡単には壊れないし穴なんか開かなわ。それこそ管理人同士で戦わない限りわね。それだって一人二人の力ではビクともしなわ。其方は異世界転生や異世界召喚っていうのは知っている? 」
突然そんなことを聞かれた。
「ネット小説とかでよく使われる設定なら知っているぞ。異世界の人間に魔法で呼ばれ魔王を倒せとか言われたり、神様のミスで死んだからその穴埋めに別の世界に行くってのならな。大抵すごい力を簡単に手に入れて、女性に優しくすると簡単に惚れられたりするやつだろ」
三十路手前で彼女いない俺はよくスマホでその手の小説を読んでいたから答える。仕事がやんなったときとか俺も異世界に行って、すごい力を簡単に手に入れてハーレムしたいな、とかよく考えたものだ。思い返しても悲しい現実逃避だ。
「うむ、いささか偏りはあるが概ねそんなところだ。其方のいう異世界とはこの場合、ビルの下層フロアに該当する。ビル内での世界移動は簡単に行うことができるし、輪廻転生の輪は基本このビル内での出来事なのだ。ただ、其方の言うネット小説のような召喚や転生はおいそれと行われることは普通はないわ」
メアリーの言っていることは何となく理解できたがそれがこの事態とどういう関係があるのかまだ分からない。俺がそう聞くと、
「管理組合が、神様達の組織のことね、調査した結果なのだけど、この地球が含まれるビルの管理人は地球のネット小説が好きだったらしいの。それで自分で実際にやってみたくなったらしいわ。科学文明はこの世界を含めて数えるくらいしかなくそれ以外は魔法が発展した世界なのよ。ただ、ネット小説みたいな召喚されたり転生した地球人のほうが現地の人間より魔法の扱いがうまいっていう世界はそんな無くて、すぐ一杯になってしまったらしいの」
猫の口から世界の謎を聞いてしまった。この世界の神様がネット小説のファンだったとは、これこそ神のみぞ知るってやつだ。ここまで聞くと何となく察しがついた。
「まさか、その神様ってのは何棟もビルを管理してたのか。それで一つのビルだと足りなくなったから違うビルに地球人を送り込んでいたのか」
メアリーは残念そうな表情で頷いた。
「その通りよ。調査の結果、転生させた時に何らかのミスによって壁に亀裂が入って一気に穴が開いたらしいの。警備メンテナンス担当者が気づいたときには、瘴気が地球に流入してしまったあとだったわ。異世界の方は被害が少ないのが幸いね。瘴気の影響で先ず死体が汚染され、汚染された死体に噛まれた人間も傷口から瘴気に汚染されゾンビとなってしまったの。一度噛まれたらゾンビになってしまうからまさにパンデミックね」
メアリーはそう説明する。
「なんだよそれ。神様だか管理人だか知らないがそんな奴らのせいで俺たちは危ない目にあって、死ぬ危険に襲われているのかよ。ふざけるなよ、お前達のせいなんだから何とかしろよ。手遅れでしたって簡単に言いやがって無責任だろ」
俺は激昂した。テーブルを思いっきり叩き、空のカップがテーブルから落ちた。
ガシャーンと音が店内に響く。
「痛てーー」
メアリーに引っ掻かれた。俺の頬に爪痕が刻まれる。
「落ち着けというに。妾に八つ当たりしても始まらぬ。妾のせいではないぞし、妾は其方らを手助けするためにやって来たと言ったであろう」
そう諭され俺はなんとか気持ちを押さえる。
「ごめん、悪かった。メアリーは助けてくれたのにな。でも、その神様だか管理人だかの連中は何だって自分達で来ないんだ。管理ってことは世界を守る存在なんだろう」
「神達は基本世界に干渉はしないわ。自分達で動くとどんな影響が起きるか分からないからね。それに責任を負うのは自分達が担当する積層世界だけよ。
自分が住むビルが崩壊しても、隣のビルの管理人に文句は言えないでしょう。神と言うのはそのビルを建てた所有者でもあるわ。地球の場合はあくまでもやらかした管理人が責任を負うのだけれど、行方不明だから、規定に基づいて管理人組合が代理として手助けしようとなったわけ」
なんということだ。俺は絶句してしまう。慰謝料を貰おうにも責任者が行方不明でボランティアの方々が助けてくれるって訳か。
「神様達の事情は分かった。俺らを助けてくれるのはありがたいが、メアリー(一匹)だけでは無理があるだろ。いくら不思議な力を使えるからって、助けられる人々はたかが知れてるよ」
いくら不思議な力を使えるからといっても猫一匹じゃと思ってしまう。
「管理人が直接助けには来ないが、それなりの対応をすることになっているぞ。それに妾は猫ではないぞ。これは仮の姿じゃ。それに」
メアリーは偉そうに言う。
こいつ、声色は美女と思えるがメスなのか。態度がデカいよな。そんなことを考え、俺はメアリーを持ち上げた。
ああ、メスだな。
「何をする。不埒もの、乙女の敵め」
メアリーの爪が俺を襲い無傷な頬に傷をつける、さらに目に見えない圧力が俺にぶつかる。
猫に乙女もクソもないだろうと思い意識を失った。
(続く)
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