第7話 ダンジョン探索2

 呼吸も安定し、手のひらの傷も治った。ドロップ品を回収して回ると気づいたことがあった。ウサギの魔石と肉以外に宝箱が置かれていた。ウサギと戦う前にはなかったはずだ。


 「少しはモンスターと戦うということを理解したようね。命御やり取りの怖さが分かったでしょう」


 師匠がそう俺に語り掛けてきた。安定の俺の肩に陣取るとさらに続ける。


 「通常の一角ウサギに見えたけどエリアボスだったので多少知能が高かったのよ。まあ何とか倒せたようだからいいでしょう。宝箱を開けなさ。エリアボスを倒すと褒美で宝箱が出現するの。ちなみにこの場合の宝箱には罠はないから安心しなさい」


 俺は師匠からのそう言われ安心して近づく。さっきの宝箱より立派な箱だな。装飾もされているし。俺は何が入っているかドキドキしながら宝箱を開けた。


 中には小瓶が五本入っていた。またポーションかと思い手に取るが、液体の色が白濁している。今度は何だろう。俺は師匠に尋ねることにした。


 「それが抗瘴気薬よ。ゾンビに噛まれた場合に飲めばゾンビになることはないわ。薬草を採取して製剤するのが多いいけれど、宝箱から薬の状態で手に入ることもあるわ」


 第一目標物を手に入れたようだ。俄然やる気が出てきたぞ。


 「よし、次のエリアに行こうか師匠。あの階段を下りればいいのか」


 俺は部屋の奥にある階段を見る。


 「そうね。次のエリアに行く前に魔法の練習でもしてみましょう」


 「魔法! やったぜ」


 俺の中に眠る神秘の力が今目覚めるぜ。小説なんかだと詳細なイメージと科学知識があればものすごい魔法が使えるんだよな。


 「残念な妄想をしているようだけれど、多分耕太が考えているような方法では魔法は使えないわよ」


 俺の妄想に水が刺された。


 「魔法はイメージが重要だろう、小説だとイメージがあればなんだって出来るって書いてあったぞ」


 「確かにイメージは重要だけれどそれ以外の要素も大事なの。いくらイメージを精細に練ったとしてもそれを形にするのには別の能力が必要でしょう。魔法のイメージが建物の完成図だとしたら、建てるためには図面が必要よ」


 師匠はそう言ってさらに続ける。


 「魔法とは魔力を用いて無から有の現象を引き起こすことよ。そのためには、イメージした完成形を魔力を用いて表現しなければならないの。だから魔法を使うには、イメージを練るほかに魔力を感じることと、その魔力をイメージ通りに操作することが必要なのよ」


 師匠の話を聞いて俺は魔法を使うのも簡単ではないのだと理解した。


 「先ずは体内の魔力を感じ取ることから始めましょう。事象改変でこの世界の住人も魔力がすでに備わっているからね。目を瞑って自分の魔力を感じてってみなさい」


 師匠に言われて俺は体内の魔力を感じ取ろうとする。うーん、分からないな、もっと集中してみよう。しばらくすると俺は何か異質なものがヘソのあたりを中心として流れているのに気付いた。これが魔力というやつか、なんだか体が温かくなってきたな。


 「感じ取れたようね。それが魔力よ。今度はその魔力を指から出す練習をしてみなさい」


 俺は魔力を操ろうとする。人差し指から何やらモニョモニョと煙のようなものを出すことが出来た。なんだかすごい疲れるな。たまらずいったん中止する。


 「出来たわね。魔力を消費すると疲れるんのよ。魔力が少ないうちは今みたいに疲れるのも早いわ。魔力は使用して鍛えていけば上がっていくし、モンスターを倒して成長すれば上がるわ。今やった魔力感知と魔力操作を練習していきなさい。煙のようなあやふやなものではなく、太く、細く、何かの形にするとかね、こんな感じでね」


 そう言うと、俺の目の前に煙のように揺らめく魔力が現れ、それが○や□、ウサギのような形に変化していく。これが魔力操作のようだ。


 俺は師匠の言葉に頷く。


 「まあ魔力の練習は帰ったあとにゆっくりやりなさい。今日は取りあえず第二エリアを攻略して終わりましょう」


 そう言われたので、俺は第二エリアの階段を下りて行った。


 第二エリアも第一エリアと同じ石造りだった。

 俺は慎重に足を進める。前からウサギがやってきた。

 俺は槍を構え迎え撃とうとするが、突然天井から何かが落ちてきたと思うとウサギに覆いかぶさった。


 「スライムね。粘性のモンスターで見た通り獲物に襲い掛かると体内で溶かして食べてしまうの。飲み込まれたら今の耕太では脱出出来ないから気をつけなさい。弱点は体内にあるコアよ。体は弾力があるから力を一点に集中して突き刺しなさい」


 俺は頷くと、槍を構えなおす。


 スライムは半透明な体をしており、モゾモゾとこっちに向かってきた。

 おりゃ、狙いを定めコアめがけて槍を突き刺す。槍から弾力のある感触がし、コアの手前で弾かれてしまう。

 少しは掠ったのかスライムの動きが一瞬止まる。すぐ第二の攻撃を繰り出した。


 無事コアに槍が刺さりスライムは消えていった。


 後には、小石サイズの魔石とビー玉サイズのゴムボール見たいなものが手に入った。


 「スライムボールね、衝撃吸収に優れる素材よ」


 俺は手早くリュックにしまうと先を進む。


 さっきのように天井に張り付いている場合もあるみたいだから、よく観察しながら進む。すると天井に二匹張り付いていた。どうするか俺は考える。飛び道具の弓はまだ使えないし、ナイフだと弾かれる可能性が高いな。そうだ、ドロップ品のウサギの肉を使おう。


 俺は手早く肉を二枚取り出すと、スライムの真下に向かって放り投げた。


 肉が地面に落ちる音がする。


 スライムたちが音に気が付き肉を取り込もうと落ちてきた。俺はタイミングを見計らい攻撃を繰り出した。今回は弾かれることなくコアに刺さる。素早くもう一体のスライムを攻撃し無事倒すことが出来た。


 あまり知能が無く、音に反応するみたいだ。


 少しは状況を見ながら戦うってことが分かってきたぞ。


 よし先に進むか。

 途中も一角ウサギやスライムが向かってきたが危なげなく倒すことが出来た。気のせいかもしれないが、何となく槍が軽くなったような気がする。大分モンスターを倒したから能力が上がってきたのかもしれないな。


 そんなことを考えながら進むと、道が三又に分かれている。どれを進もうかな。

 俺は左に進むことにする。


 左に進んだところ、ボス部屋の前に到着した。ボスを倒す前に、戻って残りの道を探索しよう。俺はそう考え来た道を戻るこにした。


 「少しは慎重に考えるようになったみたいね」


 師匠が褒めてくれた。少しうれしいぜ、でも調子に乗らないように気を落ち着ける。


 先ほどの三叉路に戻ると俺は右の道に進む。

 右の道は少し進むとすぐに行き止まりになる。今回は宝箱はないようだ。仕方なく残りの道に進むため戻ることにした。


 最後の道を進むと、開けた場所が見える。


 「エリアボスの部屋だけでなくこうした広場がある場合もあるわ。ただ、モンスターハウスと呼ばれる多くのモンスターが配置されていることもあるから気をつけなさい」


 師匠はそういうと肩から降りて俺を部屋へ促す。

 

 慎重に部屋を覗くとそこにはスライムが一〇匹も犇めいている。


 今回はどうやって倒せばいいかな。肉はこんなに多いいと全部に行き渡らないだろうし、うーん、今の俺だと多対一は危ないな。そうだ、入り口は狭いからここにおびき寄せて一対一に持っていこう。あいつらは音に敏感だからそれでいいだろう。


 俺は槍で地面を叩く。ゴツンと意外と大きい音がする。


 スライム達は俺に音に反応して俺のほうにやってくる。


 槍を構え落ち着いて一匹づつ処理していく。


 最後の一匹を倒すと俺は座ってしまった。

 フー、疲れた。何とか倒せたな。


 呼吸を整え、俺はスライムのいなくなった小部屋に入る。


 部屋には宝箱が置かれていた。今度は何が入っているかな。はやる心を落ち着かせ俺は宝箱をよく観察する。箱の上に小さなスイッチのようなものがあった。これは罠解除のスイッチかな。もう少しよく見ると、そのスイッチのようなものを起点に何やら黒い靄が宝箱を包んでいる。黒い靄から魔力を感じるぞ、それも何となく嫌な感じだ。

 罠の動力は魔力のようだ。多分スイッチを押すと魔力が無くなり、罠が解除される仕組みだろう。俺は考えたことを師匠に確認する。


 「そうね。そのスイッチを押せば罠が解除されるようね」


 俺はスイッチを押して宝箱を開ける。よし罠は解除されたようだ。ふたの内側に石がセットされている。さっきはこれが飛んできたのだろう。


 宝箱の中は腕輪が入っていた。なんだろう。何か魔力を感じるな、嫌な感じはしないぞ。逆に何か優しい感じがする。


 「運がいいわね。その腕輪を付けると力が上がるのよ」


 所謂、力の腕輪ってやつか、これで少しはモンスターを倒すのも楽になるかも。


 俺は腕輪を装着する。背中のリュックや槍が軽くなったぞ。


 一通り確認すると俺はボスを倒しに向かう。


 ボス部屋に到着し俺は中を確認した。


 中にはデカいスライムが一匹いた。


 「スライムの上位種、ビックスライムね。スライムよりも耐久力が高いから厄介よ。魔法に弱いから普通は魔法で攻撃するのだけれど、耕太はまだ使えないから今回は少し手を貸してあげましょう。槍を構えなさい」


 そういうと師匠は何かを呟く。

 構えた槍の穂先が炎で包まれた。


 「魔法を付与したわ。これでビックスライムも倒すことが出来るわ」


 俺は炎が付与された槍をマジマジと見つめる。なんだか負ける気がしないな。槍を強く握りビックスライムに近づく。


 俺が近づく音で気が付いたのか、ビックスライムも向かってきた。


 ズルズル這いずるように近づいてきたが、突然ジャンプしてきた。


 間一髪ビックスライムを避ける。後ろを向いたビックスライムに槍を突き刺す。

惜しい、コアまで届かなかったが、穂先の炎がスライムを中から焼く。

 

 俺は自分の魔力を穂先に来るように意識すると、炎が大きくなった。

魔力によって大きくなった炎がスライムの体内を焼き尽くした。


 激しい虚脱感に襲われる。魔力を使いすぎたようだ。


 魔力操作の練習をしないとな。魔力を使うたびに倒れそうじゃ話にならないな。


 (続く)

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