第9話 ダンジョン探索3

 「まだまだね。魔法の具現化がまだあまいわね」

 

 意気揚々と練習の成果を師匠に見せた結果、厳しいお言葉を賜った。

 

 「大分形になったと思ったんだが……どこがいけないんだ」


 「魔力感知も操作も最初より大分上達してきたけれども、具現化が甘いわね。まだまだ練習が必要よ」


 魔法の頂はまだまだ遠いようだ。


 「ま、明日のダンジョン探索でも練習するつもりだよ。取りあえず夕飯でもたべますか」


 俺はそういうと夕飯の準備をする。ウサギ肉を余っているしカレーでも作ろうかね。これまでの様子を見る限り師匠は普通の猫の体ではないようなので問題ないと思う。


 「食べた、食べた。師匠、明日の予定はどうなるんだ」


 「明日は第三エリアからスタートするわ。明日中に第十エリアまで攻略する予定よ。早速明日の準備をするから、今日手に入れた魔石を出しなさい」


 師匠にそう言われ手に入れた魔石を取り出す。何をするのかな、そういえば魔石は持ち物の性能を上げる能力があると説明されていたな。どのようにするのだろう、俺がそう思っていると師匠が説明を始める。


 「魔石を使うのはそう難しい事じゃないわ。性能を上げたい装備に魔石を近づけて魔力を操作すればいいの。今回は耕太が背負っているリュックの容量を上げればいいのではないかしら」


 俺は師匠のアドバイスに従い、魔石を手に取り、魔石の魔力をリュックに移すように念じる。魔石が光り、その光がリュックのほうに移動した。うまくいったようだ。続けて残りの魔石を同じように操りリュックに力を移動させる。

 すべての魔石を使い切り俺はリュックの容量をどのくらい増えたか知りたくなった。中を覗くと普通にそこが見えた。失敗したのか……


 「容量が増えたといっても底が深くなるわけじゃないわ。魔力で出来た空間が出来上がり、仕舞ったアイテムはそこに保管されるようになるの。それに保管したものは時間が止まるから食料も腐らないわ」


 ダンジョン探索だけでなく今後の街の探索にも有効だな。魔石によるリュックの性能上昇も終わると眠気が襲ってきた。今日は大分動いたからな、運動不足の30歳の体には結構な運動量だったな。俺はあくびをしながら眠ることを伝え、部屋に戻った。

 明日も頑張るぞ。俺はそう思いながら眠りについた。


 翌朝はいい目覚めだった。心配した筋肉痛もなく、体が軽い感じがする。俺は顔を洗うためベッドから立ち上がる。

 立ち上がると、履いていた短パンが落ちた。俺の腹回りでゴムも緩んだか……落ちた短パンを見ると俺はおかしいことに気が付く。今まで自己主張をしていた、ビールとラーメンの成果物である俺の腹の脂肪ががどこえ行ってしまったのか、在るべきところにないではないか。

 シャツをまくり確認してみると、腹が凹んでいた。しかも薄っすらと筋肉がついている。俺は急いで着替えると師匠の所に行き聞いてみる。


 「耕太のダラシナイ体のことか。モンスターを倒したのと一角ウサギの肉を食べることにより力が増えて肉体が強化されたおかげよ。分かりやすく言うとレベルが上がったというわけよ」


 「へえ、すごいもんだ。スポーツジムも真っ青だな。ところでレベルが上がったっていうけどいくつ位になったんだ。ステータスとか見れないのか」


 「レベルやステータスという概念は基本的にはないわ。この世界を管理していた管理人が転生や召喚をさせた時にはそんな概念も作ったみたいだけれど、今回はそういう概念は導入されないわ」


 ガッカリした。小説の主人公のようになれるかと思ったがそう上手くはいかないようだ。気を取り直し、朝食を食べて俺たちはダンジョンに向かうことにする。


 「よし、今日もダンジョン攻略を頑張りますか」


 昨日使った転移陣に乗り込み、エリア2のボス部屋に移動する。

 よし、第三エリアに突入しますか。


 第三エリアも変わらず石造りの構造だった。モンスターや罠に気を付けながら足を進める。途中、スライムやウサギが現れたが、昨日練習した弓を使って倒すことが出来た。遠距離攻撃にも徐々に慣れてきたぞ。ヘッドライトで見える範囲だからそこまで遠距離でもないけれどね。しかし、先が暗いからモンスターがいつ来るか分からないのがキツイな。気を使うから疲れてくる。何かモンスターの気配などを知るすべはないものかな。

 俺は少し考える。そうだ、魔力感知が使えないか。モンスターも量の多い少ないはあるだろうが、魔力があるんじゃないかな。そう思い、自分に魔力感知をする要領で前方に魔力感知をしてみる。

 うーん……わからん……ん……何か魔力らしきものを感じるぞ。少し先から微量の魔力を持ったのがこっちに向かってきているぞ。

 弓を構えて魔力を感じる方向に矢を放つ。グサ、矢が刺さる音がする。先に進むとウサギが倒れているのを見つける。いいぞ、魔力感知での索敵が出来たようだ。これでダンジョンの探索が進むだろう。


 「教えなくても索敵が出来るようになったのね。褒めてあげましょう」


 師匠が褒めてくれた。気を良くして歩みを進めることにする。


 第三エリアも上のエリアと同じで三叉路に分かれていたが、魔力感知をしながら進むとモンスターハウスの存在を知ることができた。行ってみると、スライムがうじゃうじゃといる。なるほど少し分かって来たぞ。モンスターによって感じる魔力が違っている。俺は自分が成長しているのを感じてうれしくなるが、気を落ち着けスライムを駆除することにする。今度は魔法で倒してみよう。俺は火球の魔法を使用する。


 「ファイヤーボール」


 俺が放った魔法はスライムの3匹を巻き込み命中する。火球が命中したスライムは動くこともなく消えていった。うまくいったようだ。しかし、ファイヤーボールだと少し威力が強いかもしれないな。野球ボールくらいの大きさだが、スライムはコアさえ攻撃できれば倒せるからな。おっと、スライムがこっちに向かってきたぞ。取りあえずは槍で倒すことにするか。


 俺は槍に攻撃を切り替えてスライムを倒していく。今回は危なげなく倒すことができ、宝箱を回収することにする。今回は罠は仕掛けられていなかったので安心して開けることができた。中にはポーションが入っていたのでリュックにしまうと探索を続けることにする。


 俺はさっきの戦いを思い出す。ファイヤーボールだとスライムにはオーバーキルだな……そうだ、弾丸のような小さいものにすればいいんじゃないかな。形状を弾丸のようにすればスライムの弾力のある体も貫通するかもしれないぞ。そう考え、イメージを魔力で再現する。すると弾丸の形状をした火の魔法が出来上がった。なんとか出来たな、ただ一発しかできないのは心もとないな。なんとか連発出来ないかな。俺は少し試案し、名案を思い付いた。ファイヤーボールを具現化した状態でその一部を弾丸の形状で分離して放てば連発できるかもしれないな。


 自分の案を試すべく、ファイヤーボールを出現させ、魔力操作によりその一部を弾丸の形になるように分離してみる。うまくいったようだ。これで複数のモンスターでも連射で倒すことが出来るかもしれないな。


 「魔力操作も大分うまくなったようね。最終的には、その火球から分離するのではなく数多く出現させられるようになれるようにしなさい」


 師匠に言われ俺は頷く。この火の弾丸はファイヤーバレットと名づけることにしよう。俺は索敵を行い、少し前に2匹スライムの魔力を感じたため、手に入れた魔法を放つ。

 2発放つと火球は五分の一くらいに小さくなっていた。この分だと十発が限界だな。取りあえず今はこれでいいかな。そう考え俺は倒したスライムの元へ歩き出した。


 第三エリアも探索し終えて俺たちはボス部屋の前に到着した。中を覗くと錆付いた剣を握った子供のような大きさのモンスターがいた。


 「あれはゴブリンよ。そんなに強くはないわ」


 あれがファンタジーの定番モンスターのゴブリンか。そんなに強くないらしいがここは慎重に行くとする。


 俺は足音を忍ばせてゴブリンに近づく。槍が届く距離まで近づくとゴブリンも俺に気が付いたようだ。

 ギィ、ギィと唸りながら俺に攻撃しようと剣を振り上げてきた。剣を振り下ろされる前に槍をゴブリンに突き刺した。槍を握る手に肉を刺す感触が伝わる。気持ち悪いな。だが二足歩行とはいっても人とは違う容姿をしているため、それ程嫌悪感を抱くことはなかった。


 槍を刺した個所からゴブリンは血を流しながら倒れ、ゴブリンは消えていった。そんなに強くなかったが数で来られると厄介かもしれないな。次のエリアはゴブリンが多くいるかもしれない。俺はそう考えて先を進むことにした。


 (続く)

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