ハッタリの利いたアクションに、多彩なキャラクター。これぞ武侠小説。

 武侠小説――中華圏において、日本の時代小説・剣豪小説と同様のポジションにある大衆小説のジャンルです。
 武を修めた侠《おとこ》たちが、笑いあり涙ありの大活劇を繰り広げる。それが武侠小説です。
 本作品の内容はまさに堂々たる武侠小説と評してよいもの。しかしながら、このジャンルに馴染みのない人間にも読みやすい文体で描かれています。誤解を恐れずに表現するなら、ライトノベル寄りの武侠小説である、といえるでしょう。
 武侠小説の魅力といえば、まずひとつに武術の秘技が乱れ飛ぶ戦闘シーンが挙げられます。
 この作品でも他聞に漏れず、ハッタリの利いたケレン味のある戦闘が繰り広げられます。スピード感溢れる描写の合間合間に登場する、必殺技の数々。そのさまは、ビジュアルを伴って読者の脳内に再生されます。
 圧巻は、「戴天道士」の章のクライマックスシーンです。ネタバレを避けるため詳しくは書けませんが、作者渾身の一幕であることは疑いようもありません。
 登場するキャラクターにも、個性が光ります。
 主人公の李白は、掴みどころがなく常に人を小馬鹿にする態度を崩さない男ですが、どこかとぼけていて憎めない性格。脇を固めるキャラクターも、みな魅力的です。憎らしい悪役、というものをきっちり描けているのも好印象。
 物語は、「戴天道士」という大きな区切りを終え、新たな局面に突入したあたり、といったところでしょうか。
 桃蘭香や元林宋など、今後活躍しそうなのだけれどもいまだ話の大筋に絡んでいないキャラクターもおり、どうやら壮大な群像劇になりそうな気配。
 期待大です。
 
 

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