中国唐代の詩人にして、「詩仙」と称される李白。彼が遺した詩は教科書にも載っていたりするので、読んだことのある人も多いでしょう。
本作はその李白が主人公なのですが、おそらく我々がイメージする李白を大きく覆すこと間違いなし!
本作で描かれる李白はまだ少年と言っていい年齢。それなのに酒と碁が大好きで、なぜかジジイ口調で喋り、目的のためなら向う見ずに突進し、気に入らないことがあればすぐ口答えをする。
そしてこの李白、口が達者なら腕も達者で、己の前に立ちふさがる悪党が居ようものなら並外れた拳法で成敗する。
中国の武侠小説を彷彿とさせる本格的な格闘描写は必見です。
一見型外れのようでいながら、時折ストーリーの流れに沿って実際の李白が詠んだ詩を披露するのも心憎い。
また、名家の落ちこぼれや、自称美少女侠客の少女、寺で暮らす西域出身の少年、神出鬼没の怪しげな老人など一癖も二癖もある登場人物が次々現れて、彼らを主役としたエピソードが紡がれていき、それらが折り重なって李白を中心とした一つの物語になるという構成もお見事です。
全体を見れば長編ですが、一つ一つのエピソードは短く読みやすいので気になった人は是非是非。
(四字熟語っぽいタイトル四選/文=柿崎 憲)
李白というとどこかで聞いたことのある名前です。
中学の国語の授業で、杜甫とセットで覚えた昔の中国の詩人。
どんな人物だったのか……というのを大胆に描いたのがウェブ小説ならではの勢いで描いたのが本作。
フィクションならではの、李白がおバカをやるコミカルなシーンがあると思えば、作中で描かれる事件はけっこう重いもので描写も重厚。
武侠ものとしてアクションシーンの派手さに感嘆するかと思えば、主人公李白だけでなく金剛智や不空といった史実の人物が登場するなど、歴史方面のファンもうならせるほど本格的。
歴史とか唐とか難しそう、と思うような方にも読んでいただきたいです。
ああ、武侠小説はこうでなくっちゃ!
それが、この作品を読んだ時の率直な感想だった。
映画好きである僕は、ガキの頃「決戦・紫禁城」や「セブンソード」を見て、胸をときめかせた。そして、こんな小説はないものか? と、探して出会ったのが、金庸や古龍が描く武侠小説の世界だった。
それから時が過ぎ、武侠熱が冷めた僕は、時代小説の人になってしまった。
しかし、この「剣侠李白」が遠き昔日の記憶を蘇らせてくれた。
武侠小説の本流とも言える、文章によって!!
例えば「紅袍賢人 第四節 足場なき空中戦」から引用すると――
・李客はわずかに上体を仰け反らせてこれをやり過ごし、追撃の騰空飛脚を低く伏せる燕子抄水の型で潜り抜ける。
・体を捻り、騰空擺蓮脚に似た形の後ろ回し蹴りを放った
・李客の掌打で押し返された元林宗は、今度は椅子の背もたれを蹴って斜上方へ飛び上がる。腰を捻って回転を加え、そして雷霆の如き鋭さを込めて足裏を下方の李客へ。――「落星墜」の技だ。
そう、少年の胸を熱くさせる、必殺技の連呼!どんな技か忘れる事もあるが、脳内で熱いアクションを想像する、それが武侠小説の愉しみ!
嗚呼、愉快哉!
武侠ならではの言葉選び、文章構成は、このジャンルへの深い尊敬と愛を感じます。
こうした作品なんですよ!!読みたいのは!!
好きで好きで書かずには死ねない、熱く迸るパトスが文章から飛び出し、僕の百会穴に騰空擺蓮脚を狙って来るんです(笑)
ほんと、痛快娯楽エンターテインメントです。
オススメ!
【WEB歴史時代小説倶楽部 参加作品】
放心散漫知何在――つかみどころのない盛唐の詩人「詩仙」李白のイメージを珠玉のエンタメに落とし込んだ、豪快な架空歴史アクションです。
基本的には笑えるシーンもふんだんに盛り込んでありますが、緩急がしっかりしており、この作品の最も魅力的な、息もつかせぬ戦闘描写を引き立たせています。
氏の別作品であるところのエッセイ「小説家のための武術秘伝」を自ら実践したものであるといえるでしょう。
是非ともこの圧巻の冒険譚を、少しでも多くの方に触れていただきたい。少なくともジャンルの好みだけで見逃してしまうには惜しいですよ。
不空や翡蕾、そして敵に至るまでどのキャラクターも人間味に溢れているのですが、それは李白という男を通して瑞々しさが引き出されているからなのかもしれませんね。
史実の彼を語る上で常に対置される「詩聖」杜甫の方が個人的には好きだったのですけれど、この作品に触れたことで一見大仰にすら映る李太白の詩風にも魅力を感じることができたように思えます。
「東方不敗」と聞いて、「アレを切り取った変態ジジイ」を思い浮かべるあなたは、直ちにこの小説を読むべきです。
ガンダムのキャラクターを思い浮かべてしまったあなたも、騙されたと思って『剣侠李白』を読んでみて下さい。きっとこの世界の魅力に、心を捉えられてしまうことでしょう。
そもそも、「武侠小説=ラノベの元祖」的なことは、以前からよく言われていました。金庸作品なんか、ツンデレヤンデレ美少女がいっぱい出てくるオレTUEEE系だとも言える要素があるわけで、もともとラノベとの親和性が高い。この『剣侠李白』は、文章も適度にライト、ギャグ要素も詰め込まれて、とても読みやすい作品となっております。唐代を舞台とする点も面白かったです。
最後に、横文字だと中二感があふれてしまいがちな「必殺技」名も、漢字だとめちゃめちゃかっこいい!と、あらためて思った次第です。このジャンル、もっと流行ってほしい!
武侠小説――中華圏において、日本の時代小説・剣豪小説と同様のポジションにある大衆小説のジャンルです。
武を修めた侠《おとこ》たちが、笑いあり涙ありの大活劇を繰り広げる。それが武侠小説です。
本作品の内容はまさに堂々たる武侠小説と評してよいもの。しかしながら、このジャンルに馴染みのない人間にも読みやすい文体で描かれています。誤解を恐れずに表現するなら、ライトノベル寄りの武侠小説である、といえるでしょう。
武侠小説の魅力といえば、まずひとつに武術の秘技が乱れ飛ぶ戦闘シーンが挙げられます。
この作品でも他聞に漏れず、ハッタリの利いたケレン味のある戦闘が繰り広げられます。スピード感溢れる描写の合間合間に登場する、必殺技の数々。そのさまは、ビジュアルを伴って読者の脳内に再生されます。
圧巻は、「戴天道士」の章のクライマックスシーンです。ネタバレを避けるため詳しくは書けませんが、作者渾身の一幕であることは疑いようもありません。
登場するキャラクターにも、個性が光ります。
主人公の李白は、掴みどころがなく常に人を小馬鹿にする態度を崩さない男ですが、どこかとぼけていて憎めない性格。脇を固めるキャラクターも、みな魅力的です。憎らしい悪役、というものをきっちり描けているのも好印象。
物語は、「戴天道士」という大きな区切りを終え、新たな局面に突入したあたり、といったところでしょうか。
桃蘭香や元林宋など、今後活躍しそうなのだけれどもいまだ話の大筋に絡んでいないキャラクターもおり、どうやら壮大な群像劇になりそうな気配。
期待大です。
あの李白が武侠って時点で「こいつはやべえ! 傑作の予感だ!」となったのですが、実際読んでみるとその予感は確信へと変わりました。
武侠小説特有の空気感を持つ文体、魅力的に躍動するキャラクター、熱い戦闘、いずれをとっても最高です。
特に面白かったのが李白がどちらかというと狂言回しの立場であり、一つ一つの話だけで言えば彼以外の人々に焦点を当てることで物語に幅を持たせていることです。
この深さと広さを持つ世界、それを支えている作者の勉強量を思うとただただ頭が下がります。自分も一作者としてこれに倣い、修行を続けていきたいと思うようになる作品でした。
あとひとこと紹介では格好いい事書いてますけど、実際の所やっぱり史実通りのちゃらんぽらんです。でもなんだかんだ義の側なんだけどまあそこら辺のふわふわ具合も武侠ものの主人公の魅力だよね!
要するに武侠ものもっと流行れ!