それは豪快な武術の奥義のように繰り出される文章。引き寄せられました

放心散漫知何在――つかみどころのない盛唐の詩人「詩仙」李白のイメージを珠玉のエンタメに落とし込んだ、豪快な架空歴史アクションです。

基本的には笑えるシーンもふんだんに盛り込んでありますが、緩急がしっかりしており、この作品の最も魅力的な、息もつかせぬ戦闘描写を引き立たせています。
氏の別作品であるところのエッセイ「小説家のための武術秘伝」を自ら実践したものであるといえるでしょう。

是非ともこの圧巻の冒険譚を、少しでも多くの方に触れていただきたい。少なくともジャンルの好みだけで見逃してしまうには惜しいですよ。

不空や翡蕾、そして敵に至るまでどのキャラクターも人間味に溢れているのですが、それは李白という男を通して瑞々しさが引き出されているからなのかもしれませんね。

史実の彼を語る上で常に対置される「詩聖」杜甫の方が個人的には好きだったのですけれど、この作品に触れたことで一見大仰にすら映る李太白の詩風にも魅力を感じることができたように思えます。

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