このたびは、「参加レビュワー求む!カクヨム文芸部書評バトル」にご応募いただき、ありがとうございました。集まったレビューは、なんと169件!ご応募いただいたレビューを読んでいると、作品の魅力を語る皆さまの声が聞こえてくるように感じられ、その熱量に圧倒されました。ほんとうにどれもみな、作品愛あふれる素晴らしいレビューばかりで、今回、たった4本に絞らなくてはならなかったのは断腸の思いです……!寄せられたレビューを拝読して興味をそそられ、思わずフォローしてしまった作品も数知れず…沢山の魅力的な物語との出会いに大感謝です。
そして、今回はカクヨム文芸部特別企画ということで、ユーザーの皆さまにお願いがあります。本ページ右欄にあるURLからTwitterの投票機能を利用して、一番作品を読みたくなったレビューにぜひご投票ください!投票は2/4から3日間。あなたの一票がベストレビューを決めます。書評バトルを勝ち抜くのは一体どのレビュワーか!?(※結果は2/8(火)にお知らせ記事、Twitterで発表します。)
この物語を拝読するのは、二度目です。
読むほどに味わいの深まる作品は、思ったほど多くありません。それは、物語そのものに厚みや重みがあり、登場人物たちが真剣に「生」に向き合う姿を細やかに描き出した作品だけが持っている特徴だという気がします。
本作は、回を重ねるごとに味わいが一層濃くなる物語だと、改めて感じます。
19世紀末のフランスで、次々に訪れる過酷な運命を必死に生きた少年、ジュール。15歳で親を失い、引き取られた先の主人に力ずくで性を搾取され——持って生まれた容姿のあまりの美しさが、その残酷な運命を引き寄せた一つの原因でした。
弱いものに目を付け、執拗に追い詰め、自分の欲求を強引に押し付ける人間たち。その卑劣さ、残酷さに、決して改まることのない「人間」という生き物の愚かさをまざまざと見せつけられる思いがします。
与えられた運命の中で、それでも彼は何にも代えがたい出会いを手にします。彼を深く愛する恋人、そして、まるで父のように深く彼を愛する存在。彼らとの出会いで、愛し愛される喜びを知っていくジュール。深い愛情を交わすことで、今にも枯れそうな花が生き返るように輝き出す彼の姿は、読み手の心を強く揺さぶります。
人間の心にとって、「愛情」を注がれることがどれほど大切か。押し付けがましい説教などではなく、苦しみの中を必死に生きようとするジュールの姿が、まさにそのことをありありと訴えかけてきます。
この作品は、軽くて口当たりの良い物語ではありません。しかし、軽い口当たりの良さだけで埋め尽くされた物語を読み終えた先に、本当の感動はあるのかどうか。深い影があるからこそ、差し込む光が一層眩しく心に染みるのではないか。そんなことを、ふと思います。
ジュールの味わった残酷な苦しみと、その苦しみを乗り越えた先に手にしたもの。目を逸らさずに、一人でも多くの方にその明暗を深く味わって欲しい。心からそう思わせてくれる、素晴らしい作品です。
いきなりポンペイの大噴火という歴史的天変地異から始まる本作。
主人公は、というより主人公を押しのけて物語の中心にいるのは、女神のように美しく、台風のように荒々しく、お姫様のように人使いが荒い、青い瞳の令嬢コレティア。
彼女とコンビを組むのが、主人公にして、コレティアの護衛を仰せつかったルパス。彼は、強いし、責任感はあるし、なにより頼りになる男。
大噴火の中、帰郷したコレティアと彼女の護衛ルパスは、港で「この噴火はアグニの呪いだ」という噂を耳にする。アグニといえば、インドの神様。その名がなぜ、ローマで出るのか?
そのちょっとした疑問から二人はある殺人事件に巻き込まれ、いや正確には巻き込まれたのはルパスで、コレティアは自ら首を突っ込んでいくのだが、そこから二人は帝国を揺るがすような巨大な悪へと立ち向かうことになる。
とにくかコレティアとルパスの二人の関係が楽しい。
美貌の令嬢であるにも関わらず、どんな事件にも興味津々。知的で、乱暴で、高貴にして華麗な、まさに戦女神。
彼女の護衛のルパスは、そんなハチャメチャなお姫様に、心の中で文句をたれながらも、時に彼女の盾となってその身を守り、火急の場合は腰のグラディウスを抜き放って奮戦する。
が、二人の間には表面上はまったく、相手を労ったり、思いやったりする態度はなく、出てくるのは毒舌ばかり。ルパスはコレティアの美貌に興味はないし、コレティアもコレティアで、まるでルパスを飼い犬かなにかの如く扱う。
が、いったん事件が起これば、二人の息はぴったり。二倍三倍の戦闘力でつぎつぎと危機を脱してゆく。
本作は、舞台となるローマ帝国をあちらこちらへと旅して、この二人が事件の謎を解決してゆく物語である。
当時の風習や文化が、まるでその場にいるような臨場感で語られ、食事や風景、建築物や服飾にいたるまで詳細に描かれている。ローマ人、ユダヤ人、ゲルマン人といった多民族の風俗や生活、宗教に至るまで丁寧に解説され、まるで精密に構築された美しい異世界を旅しているようだ。
広大なローマ帝国を、最強コンビが事件と謎を追って駆け巡る。
文句をいいつつも、必ずコレティアについてゆき、彼女を守るルパス。
憎まれ口を叩きつつも、絶対にルパスを手放さないコレティア。
行く先々の事件、危機また危機の連続へ率先して飛び込んでゆくコレティアと、巻き込まれてぼやきつつも絶対に引かないルパスの最強コンビ。
横たわる巨大な陰謀。歴史の闇。そして、二人の、それぞれの過去。
そんな闇も謎も悪も陰謀も、そして気に入らない男たちまでも、片っ端から蹴り倒して昏倒させるコレティアのハイキックの爽快感!
もしあなたが、『ローマ帝国』への『刺激的』な旅行を計画しているのなら、本作はうってつけである。
ナラティブというのは、直訳すれば"物語"という意味の英単語だが、昨今、特にゲーム業界で取り沙汰されているこの"ナラティブ"という言葉は、明確な目的やストーリーラインを語る事なく、ゲーム進行や物語の解釈をプレイヤーに委ねるスタイルを取ったゲームを言い表すのに使われている。言い換えれば、主人公──つまり物語の語り手に対して、プレイヤーが同一視を覚えるようなゲームを指す言葉であると言える。
この短編集の一編を読んでまず脳裏を過ったのは、この"ナラティブ"という言葉だった。
何故だろうか。それは本作が、それぞれの短編の世界観についての説明がほとんど為されていないからだ。
この短編集で描かれているそれぞれの世界は、我々が暮らしているこの世界と似通ってこそいるが、どうやら地続きにある世界ではないらしい。それがわかるのは、作品内の端々に散りばめられた聞き慣れない言葉や、見慣れない描写があるからだ。だが、一部の例外を除き一人称の語り手視点で語られている地の文では、その部分に関してほとんど触れられる事はない。
この我々の世界に近似値を示しながら、決して交わらない世界観──どこか不気味で、それでいて幻想的で、そして死を身近に感じ、ともすれば死によって成り立っている世界に、読み手である我々はほとんど手がかりも与えられずに放り込まれ、誰とも知れない語り手の頭に閉じ込められる。そして彼ら、彼女らの見たもの聞いたもの考えたことを、ひどく感覚的で詩的な描写によって体験してゆく。
もちろん、ノベルゲームですらないただの小説である本作において、読み手である我々はただ語り手の追体験をするのみであり、そこに選択の余地はない。それでもナラティブを感じたのは、この語り手達には名前がないからだろう。一部のキャラクターを除けば、彼ら彼女らには名前がない。たとえ名前を持っていたとしても、それはそのキャラクターに与えられた役割を表す冠であったりする。だからある意味で、それぞれの短編の語り手たちは無個性的なのだ。
さらに先に述べた、世界観に対する解説が乏しい事も、語り手たちの無個性さに拍車を掛けている。語り手たちが一人称の地の文において、彼ら彼女らの視点からどれだけ饒舌にその考え方を語っても、読み手である我々は世界観に対する理解が乏しいから、何故彼らがそういう考えに至ったのかを読み解き、自由に幅広い解釈をする余地がある。
きっとそれぞれの短編を読み終えた時、その世界観の解釈は、読者それぞれ十人十色、さまざまな捉え方があるだろう。おそらくそこに、これこそズバリといった明確な答えは用意されていないのではないだろうか。
この短編集の主題『墓碑銘カレイドスコープ』とは、まったく言い得て妙だ。まさしく万華鏡のように、読み手によってさまざまな世界観が視える。
それぞれの短編は、そうやって読み手を通し、その頭の中で想像される事でようやく完成する。そう考えたからこそ、レビュータイトルに、ナラティブ小説と銘打たせていただいた。
この万華鏡から覗く模様の一つを増やして欲しい。
長文失礼。そして最後に──是非とも、御一読あれ。
一行目。読んだ瞬間から、確信しました。
あ、堕ちたなと。もうこの世界に入ってしばらく戻って来られないなと。
実際そうでした。一気に読んでしまいましたが、読み終わるのがとても嫌でした。まだ読んでいたい、ずっとこの物語を見ていたい。けれど、読み切りたい。二つの感情の間で揺られながら、読了したのが昨日です。
絶対レビューを書こうと決めましたが、何しろ未だに興奮が冷めないので、文章が支離滅裂かもしれません。ご了承下さい。
役者になることが夢の志維菜と、絵描きになることが夢の詩恵奈の二人が、ひょんなことから出会い、同居することになります。
この「ひょんなこと」というのがまたインパクトがあるのですよね…。
この時点でもう虜になってしまう人も多いのではないでしょうか。
コミカルで明るいので、笑いながらつっかえることなくスイスイと読めます。それでいて文章がしっかりしているので、深みもあります。出てくる文章表現が、また刺さるのですよ…。気取っておらず、ただただ真っ直ぐに、読み手の心に向かってくるといいますか…。
そして、一番重要なこと。この物語の中心を流れる川。そのテーマは、「夢」です。
この小説って、シンデレラストーリーではないんです。サクセスストーリーではないんです。
努力して、紆余曲折あったけど、小さい頃からの夢を見事叶えてハッピーエンド。そういう物語ではありません。違います。
綺麗事は一切書かれてません。
夢を追い続けることによってあぶり出される、「人間らしさ」。
そういったものが、目を逸らされずに、明白に書かれています。
夢。夢を抱くって、とても素晴らしいことです。それを実現させるために努力するのも、素晴らしいことです。
けれど、こんなにも残酷なものがこの世にあるでしょうか。
夢は、必ず「現実」を運んできます。
挫折。嫉妬。
夢を抱くことは、綺麗なものばかりではありません。むしろ、とても汚いものばかりが纏わり付いてきます。
本当にリアルでした。心が痛むまでに共感しました。
でも、ただ暗い現実を描いただけでは終わりません。
ラストで深く納得しました。このタイトルの意味は、そういうことだったのかと。
同時に、何か、とても大切なものが見えた気がしました。
夢を追いかけてる人、夢がわからない人。夢を叶えた人、夢を挫折した人。
全ての人々に、読んで頂きたいです。
この小説は、そういった人々に、必ず心に何かを残してくれるはずです。